デジタル決済「m-CBDCサービス」
これと同時並行に進んでいるのが、デジタル通貨による決済である。中国が中心となって、各国の中央銀行が発行するデジタル通貨のリアルタイム、ピアツーピア、クロスボーダーの外国為替取引を可能にするシステムの「m-CBDCサービス」がある。
すでにこの計画は、中国、タイ、香港、アラブ首長国連邦の中央銀行によって計画が進められている。これが導入されると、ドルベースの送金システムである「SWIFT」を使う必要性はなくなる。「m-CBDCサービス」を使うと、中国は「デジタル人民元」ですべての決済を行うことが可能になる。
いま計画段階は終了し、すでに7月から中国南部の広東省でサービスが始まっている。これは、デジタル通貨の国際決済への応用における重要な進展となる。時間のかかるプロセスを伴う商業銀行に依存する従来の国際決済と比較して、「m-CBDCサービス」はリアルタイム取引をサポートし、効率を大幅に改善し、コストを削減しながら、国際取引の透明性を高めることができると期待されている。
ちなみにこのサービスは、参加する中央銀行および商業銀行間で共有されるデジタル通貨プラットフォームを、ブロックチェーンの分散型台帳技術を基盤として構築し、即時の国際送金および決済を可能にする。また、高コスト、低速度、業務の複雑性など、国際送金の主な非効率性のいくつかに対処することも目的となっている。
このサービスは、さまざまな中央銀行デジタル通貨による国境を越えた決済をサポートしており、異なる国や地域間の決済が、為替取引なしでより便利に行えるようになる。その結果、国際貿易の円滑化がさらに促進される。また、このプロジェクトにより、デジタル人民元の国境を越えた決済への適用がより広範かつ便利になる。これは、デジタル人民元の国際的地位と影響力を高め、そのグローバルな流動性を強化することにつながることが期待されている。
仮想通貨「テザー」の使用
このように、いまドルベースの既存の銀行間送金システムである「SWIFT」を使わないで国際決済を実現する多様なシステムが出現している。こうしたシステムを使うと、決済通貨としてのドルに依存する必要がないので、ロシア、イラン、ベネズエラ、一部中国企業、そしてこれらの国々や企業と経済関係が強い諸国や地域によっては願っても国際決済方法になっている。これからも、この動きが加速し拡大することは間違いないだろう。ゆっくりとしたペースながらも、脱ドル化の流れは確実に進展する。
一方、こうした中、注目されている動きがある。それは、仮想通貨のテザーが国際決済に使われるようになっていることだ。以前はビットコインが使われると見られていたが、価値の変動の激しいビットコインは嫌煙され、その価値がドルに固定されたステーブルコインのテザーの使用が拡大している。
ちなみにテザーは、発行したテザーの総額を上回るドルや米国債を、価値の根拠として「テザー社」が保有することで、ドルとテザーとの交換を保証している。2014年前後からドルの価値に固定された多くのステーブルコインが発行されているが、価値の根拠を明確に示すことで高い信用力を獲得したのは、テザーだけである。単位は「USDT」だ。この信用力が背景となり、ドルに代わる国際決済の手段として利用されるようになっているのだ。
ビットコインのような他の暗号通貨同様、テザーの送金もユーザーが保有するデジタルウォレット間で瞬時に行われる。「テザー社」はそれぞれのトランスアクションにわずかの手数料を取り、これが「テザー社」の利益になるというシステムだ。すでに「テザー社」の保有する米国債は976億ドルに達してる。これは、ドイツ、アラブ首長国連邦(UEA)、オーストラリアが保有する額を上回り、世界で見ると18位にランクインする規模だ。すさまじい規模だ。
また「テザー社」は、1131億ドルの負債に対して、1184億ドルの準備資産を保有している。つまり、「USDT」を裏付ける準備金は、発行総額(時価総額)よりも53億ドル多い。
「テザー社」の利益も凄まじい。昨年は62億ドルの利益を上げ、世界最大の資産運用会社である「ブラックロック」を7億ドルも上回っている。「テザー社」の従業員は100人に満たない。一人当たりの利益額でいかなる企業も上回っている。
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