<なぜアドバンテスト“だけ”好調?>
栫井:今、レーザーテックなどの他の会社に比べてアドバンテストの調子が良いのは、例えばレーザーテックで言うとスマホ・PCの需要が弱いからTSMCからの製造装置に対する需要が減っているのに対して、AI半導体は絶好調なのでアドバンテストは特にAI半導体の方でたくさん使われているからという理解で良いですか?
元村:その通りです。レーザーテックなどは最新iPhoneなどの動向がまずいと需要が伸び悩んでしまう側面がある一方で、アドバンテストに関しては今最も注目度の高いAI半導体の領域で需要が上がっているということです。
栫井:これまでも半導体を取り上げてきましたが、分類がされてきましたね。まずは先端半導体とそうでない半導体で、さらに先端半導体の中で、スマホ・PCで需要が伸びるものとAI半導体で需要が伸びるものと分かれているわけですね。
元村:アドバンテストの場合は、例えばAI半導体がPC・スマホなどの端末側にまで組み込まれるようになると業績の上乗せ余地が大きくなります。PC・スマホが不調の今でもAI半導体でこれだけ業績が取れている状況で、さらにPC・スマホの市場が回復してくるとさらに上乗せされるのではないかという見られ方をしているのではないかと思います。
<需要は伸び続ける>
栫井:本質的に言えば、スマホかAIかということではなくて、重要なことは“複雑化”ですよね。今の半導体という仕組みが使われている以上、複雑化しないということはあり得ないと思うのですが…
元村:そうですね、間違いなく世の中から性能の向上が求められ続けるところなので、長期的に見れば間違いなくテスト装置需要も伸びるということになると思います。
栫井:そういった観点では、おそらく今AI半導体に対する大手テック企業の投資が加速している状況だと思いますが、仮にそれが収まったとしてもその後まだまだ需要は増えていくのではないかということですね。
ライバルは?
栫井:ライバル企業はいないのですか?
元村:米国のテラダインという会社があります。半導体のテスター市場におけるアドバンテストのシェアは2017年時点では36%しかなかったものが、2023年には58%まで拡大していて、テラダインからシェアを奪ってきているという状況です。

栫井:なぜそうなったのでしょうか。
元村:もちろん技術的なところはあると思いますが、各工程でなるべく同じテストシステムを使うべきという中で、ファブレスの部分は米国が強く、ファウンドリは台湾などが強い、OSATは台湾や中国が強い状況で、テラダインは米国企業なので、関係づくりに難があるのではないかと私は思っています。それに対してアドバンテストは日本企業なので、八方美人的に関係が構築できるということで、ここにアドバンテストの妙味があるのではないかと感じています。
栫井:テラダインは中国企業に対しては難しいところがあるということですね。
元村:そうですね。
栫井:日本のパスポートが世界最強といわれるくらいですからね。半導体に限らず、日本企業はどこかと敵対することが少ないので、上手く入り込める側面はありますよね。これがかつてのNECや富士通、東芝のように半導体の最終製品のところになるとアメリカとガチンコで闘うことになってしまいますが、下に入って各方面と上手に付き合うことで、争うこともなくかつシェアも高くいられるという状況があるわけですね。
元村:半導体業界は5年後にどうなっているかも読みづらいほど技術の変化が激しいのですが、そういった先々の動向を各方面の企業からうかがって、調整しながらテスト業務を組み立てるというすり合わせの技術には日本企業ならではの強みがあるのではないかと感じます。
栫井:顧客企業のニーズを聞いてそれに徹底的に応えていくというところにも日本企業の強みが現れていますね。
元村:アドバンテストのシェアの話に戻りますが、メモリテスタに関しては元々日本が強かったのでシェアはそれほど変わっていないのですが、SoCテスタ(ロジック、チップなど)のところは元々30%しかなかったものが59%まで跳ね上がってきているというのはおそらくGPUなどの足元で光り輝いている領域でアドバンテストのテスターの採用が進んでいる証左だと思います。
栫井:iPhone独自のチップに関してはテラダインが強いということですね。アドバンテストが59%で残りの41%の部分にそのiPhone向けチップが含まれると。
元村:おそらく、Samsungなどもスマートフォンにかなり高性能なチップを搭載しているので、そのテストをするための売上比率が高まったり、GPU向けといったところを獲得したりしてシェアを伸ばしているのかなというところです。
栫井:アドバンテストとテラダインの2社しかないということですか?
元村:ほぼこの2社ですね。数パーセントは中国企業などが入るのですが、ほぼ2社の寡占状態です。中国が自国内でテスト業務を行える範疇でやっている部分がその数パーセントにあたるのかなと。