今回は、いま話題になっている前澤友作さんの「カブアンド」について解説したいと思います。すでに会員数100万人を突破し、サービス申し込みは35万件に達したとのこと。カブアンドがどのようなものなのか、理解したうえで利用するかどうかを判断していただければと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
カブアンドって何?
カブアンドは、前澤さんが“国民総株主”を目指して始めたサービスだということです。
サービスに加入すると、払った料金に応じて株の引換券が貰えるというものです。
具体的なサービスとしては現時点で、電気、ガス、モバイル(携帯電話)、光、ウォーター(サーバー)、ふるさと納税の6つがあり、加入するとポイントのような形で株の引換券が貰えるという話です。
貰った株の引換券は、特定のタイミング(おそらく年数回)で実際の株式(種類株式)と交換できるということになっています。
初回の交換のタイミングが2025年5月となるそうですが、そのタイミングで1株○○円のカブアンドの株を引換券と交換できるということです。
1株○○円といってもすぐに換金できるわけではなく、カブアンドが上場した時に初めて売却によって現金にできます。
前澤さんとしては、カブアンドのサービスを利用するお客さんに株を付与したいという思いが強いようで、カブアンドの契約者に株主になってもらうと同時に、カブアンドの株価が上がることによってお客さんみんなが豊かになってほしいと謳っています。
上手くいくの?
一見するとお得なサービスに見えますが、難しい点が非常に多いことも確かだと思います。
株価が上がることによって豊かになるとありますが、株式の価値の源泉が何かというと、基本的には会社が出す利益ということになります。
将来の利益を現在に引き戻したものが株式の価値とみなされます。
つまり、カブアンドが会社として利益を出していかないことには、株式の価値が上がっていくということにはなりません。
カブアンドはどのようにして利益を出そうとしているのでしょうか。
ビジネスモデルとしては実は珍しいものではなく、インフラサービスの代理店といったところです。
あくまでカブアンドはサービスの窓口であって、そこを通じて実際のサービス提供会社と契約することになります。
大元のサービス提供会社があって、カブアンドが実際に電気やガスなどを提供するわけではないので、逆にある意味での安心感はありますし、大元のサービス提供会社にとっても前澤さんが宣伝してくれるならメリットがあるかもしれません。
ただし、ユーザー側に立つと、大元のサービス提供会社と消費者の間にカブアンドが入るとカブアンドの利益の分だけ料金が高くなる、高くならないとしたらカブアンドに利益が無い、ということになります。
また、取り扱うのがいわゆるコモディティなので何らかの工夫で安く提供できるものではなく、料金を安くすることは難しいです。
実際に同様のサービスを提供する他社と比べて特別安いということはないようです。
もちろんメリットが全くないわけではなく、株を貰えることがメリットとも考えられます。
しかし、これが難しいところで、株式の価値は企業が利益を出すことによって生まれます。
カブアンドの利益の源泉が何かというと、消費者が払う料金です。
カブアンドの利益を上乗せした料金を払って、その利益が株として一部返ってくるだけに過ぎないということになります。
カブアンドの契約者が増えれば増えるほど会社の利益が増えて株価は上がるかもしれませんが、おそらく少し高い料金を払ってまで契約する人というと、前澤さんのファンのような人たちになると思われます。
そのファンがいる限りは会社としても利益が出ると思いますが、果たして広がりがあるかというと疑問です。
前澤ファンでなければ、わざわざ高い料金を払って株を貰うよりも、安いところで契約して浮いたお金で好きな株を買った方が良いわけです。
カブアンド(前澤さん)ファンの中で完結してしまうようなビジネスモデルに見えます。
このファンの中でも古参と新参で格差が生まれてくることになります。
引換券と株式の交換が後になればなるほど、株の値段が上がって、貰える株が少なくなる可能性が高いからです。
同じ料金を払って同じサービスを受けているのに貰える株が減るということです。
そもそも未上場株への投資においては先に手を出した人がより儲かる仕組みになっています。
入るのが後になればなるほど貰える株は少なくなるので、入るなら早い方が良いですが、利益の源泉がいかに新規の信者を引っ張ってくるかということになりますし、当然、上場できずに事実上換金できない紙くずになってしまうリスクもあります。
上場できなくて株式が紙くずになってしまうリスクは未上場株投資において常にあるリスクです。
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