米国の構造的な問題点:工場海外移転と貿易赤字の真実
なぜこのような事態が起こるのでしょうか?その背景には、米国経済の構造的な変化があります。
かつて米国には多くの工場があり、国内の消費を国内生産で賄っていました。しかし、第二次世界大戦後、日本や中国など海外で生産された製品を輸入する方が安価になったため、米国の企業は生産拠点を海外に移転するようになりました。これは、米国企業がより安い製品を消費者に提供し、利益を追求するための合理的な行動でしたが、結果として国内の製造業は衰退しました。
1980年代には日米貿易摩擦が激化し、プラザ合意によって円高が進みましたが、米国の貿易赤字は解消されませんでした。むしろ、その後は中国をはじめとするアジア諸国での生産が活発になり、米国の貿易赤字は拡大し続けています。しかし、貿易赤字は必ずしも悪いことではありません。特に、ドルのように世界で通用する強い通貨を持つ国にとっては、海外から安価な製品を輸入できるというメリットもあります。
<ドルの強さとサービス業:貿易赤字でも米国が強かった理由>
アメリカドルは世界的な基軸通貨であり、その強さによって米国は世界中の安い製品を買い叩くことができました。また、GoogleやMicrosoftといった米国のサービス業は世界中で収益を上げており、これは貿易収支には現れません。成熟した豊かな国であれば、必ずしも国内で生産にこだわる必要はなく、金融収支などで経済を維持できるため、貿易赤字は容認できる範囲内でした。むしろ、これまでの米国は「アメリカ最強」の状態を享受していました。
<トランプ大統領がFRB議長を解任? 金融政策の混乱とインフレ懸念>
しかし、トランプ大統領の関税政策は、この「アメリカ最強」の状態を自ら手放すような行為と言えます。その背景には、支持層である白人労働者層へのアピールがあります。製造業の海外移転によって職を失った彼らに仕事を取り戻すため、輸入を制限しようとしているのです。また、中国の経済力を削ごうという意図もあるかもしれません。
さらに、トランプ大統領は、株価下落を受けてFRBのパウエル議長に対し、金利引き下げを強く要求しています。しかし、現在のインフレ状況を考慮すると、安易な利下げはさらなるインフレの加速、ひいてはハイパーインフレを引き起こしかねないと懸念されます。
コロナ禍後の金融緩和で株価が回復した経験から、トランプ氏は利下げが株価上昇に繋がると考えているようですが、現在の状況は当時とは全く異なります。インフレが高まっている状況で利下げを行えば、市場にお金が溢れ、物価上昇に拍車がかかるのは経済学の基本的な原則です。市場は、このようなトランプ大統領の経済政策に対する不確実性から信頼を失い、それが今回のトリプル安に繋がっていると考えられます。