学生にとっては必需品に
生成AIを最もよく使っているのは学生ではないでしょうか。課題をする時、レポートを書く時、もはや生成AIなしにはどうやってやったらいいのかわからないほど浸透をしています。
実際に学生は、生成AIをどのくらい使い、どのように使っているのでしょうか。貴重な情報源が、生成AI「Claude」(クロード)を開発したアンソロピックの調査です。「Anthropic Education Report: How University Students Use Claude」(アンソロピック・教育レポート:大学生はどのようにClaudeを使っているか)です。
このレポートはかなり信頼ができます。というのは、実際に使っている学生Claudeユーザー約100万人の実際のClaudeとの対話に基づいた調査だからです。アンケート調査ではないために、余計なバイアスがかかってなく、リアルな姿を浮かびあがらせています。
アンソロピックでは、このような調査を行うために、Clioと呼ばれるツールを開発しました。アンソロピックが、勝手にユーザーの対話を収集することはプライバシーの侵害ですからできません。しかし、Clioはユーザーの対話を分類し、その結果だけを送信して集計します。対話の中身は見ていません。
このClioを使って、57万4,740件の対話の属性を収集し、これを整理したのが、前述のレポートです。
学生が不正行為をする場合に使いがちなのが、プロンプトを入力して、文章を生成するという使い方です。アンソロピックは対話の中身を見てなく、使われている文脈も把握ができないため、このような使い方のどのくらいが不正行為に使われているかということはわかりません。
しかし、文章を生成させる使い方が、Claudeを使ううちの47%にもなりました。もちろん、すべてが不正行為ではありません。知識を学ぶために、辞典がわりに使ったかもしれませんし、プログラミングを勉強するためにコードを出力したのかもしれません。しかし、明らかに課題や演習問題の解答を求めるために使われたと推定できる例も多くあったということです。
つまり、想像以上に、好ましくない使い方が広がっているかもしれないのです。これを「課題というのは自分でやってこそ意味がある。何のために大学に通っているのか」と非難をすることは簡単です。しかし、学生にしてみれば、明日の朝までに課題を出さなくてはならないとか、AIに聞けばすぐわかるような課題を出されて、それを自分で考えることに意味を見出せないとか、いろいろ言い分があるかもしれません。そして、人類の大原則「楽ちんな方がいい」は、誰も逃れることができない麻薬なのです。一度、楽をする方法を覚えてしまうと、それがいけないことだとわかっていてもなかなか戻せないというのが人間です。
ですので、教育とAIは非常に難しい問題で、AIの利用は慎重にすべきですが、大学がいくら禁止をしたところで、スマートフォンで気軽に使われてしまうことは止めるわけにもいきません。
日本でも同様の問題が起きている
日本でも、さまざまな大学が、AI利用のガイドラインを出しています。例えば、日本大学では学長ブログの形でガイドライン案を提案しています。これによると、「生成AIのみによって生成されたもの」は学生独自の成果物とみなさないということが中心になっています。日本大学はこのガイドライン案から出発をして、実際の現場の声を基にガイドラインを洗練させていくことになると思います。
中国ではこのガイドラインがより進んでいて、2024年には学位法の改正案の中で、「学位論文の生成AIによる代筆」を法律として禁止する条項が盛り込まれました。これは大きな議論を呼び起こしました。100%のAI代筆を学位論文として認めないという点は誰もが同意をします。しかし、データ解釈をAIに分析させた、難しい部分をAIに生成させた、論文の展開構成をAIに出力させた場合はどうなるのかという「ライン引き」の問題が議論をとなりました。
もうひとつは、AI代筆の論文をどうやって見分けるのかという問題です。世の中には、すでにAI代筆を見分けるツールがたくさん出回っています。しかし、どれも完璧ではなく、誤判定が起きることが前提での利用となっています。まだまだ、AI度判定には技術開発が必要なのです。