V字回復の背景:社長交代と戦略転換
この顕著な業績回復、特に海外売上の急増や北米の黒字化は、いったい何が起きているのでしょうか。
一時的な要因としては、2025年3月期(2024年中)にハローキティの誕生50周年という節目の年だったことが挙げられます。キティちゃんのグッズが非常によく売れた1年だったようです。しかし、売上グラフを見ると、50周年だから盛り上がったというよりは、海外の売上が突然現れたような印象があり、それ以上の構造的な変化があると考えられます。
その背景には、2020年7月に社長に就任した辻智彦氏による組織改革があります。それまではアメリカ事業は赤字が続いており、手つかずの放置状態だったと言われています。商品管理やマーケティング戦略もずさんな状態でした。
辻社長は就任後、積極的に組織変革を行い、マーケティング戦略や商品管理にテコ入れを行いました。この中で、赤字が続いていた北米もしっかりやっていこうという方向に変わったことが非常に大きい変化です。
しかし、「しっかりやっていこう」という方針転換だけで、これほどまでに業績が伸びるものなのでしょうか。具体的な取り組みを見ていきましょう。
<SNS戦略の成功>
サンリオはSNS戦略を非常にうまく展開しています。特にYouTubeチャンネルの登録者数は、社長交代のタイミングである2020年7月から約半年後にブレイクスルーがあり、ぐんぐん伸びてきました。
代表的なチャンネルに「ハローキティフレンズ」があり、これが非常に高い再生回数を記録しています。このチャンネルでは、ハローキティを起点に、ポムポムプリンやクロミ、マイメロディといった他のキャラクターたちとハローキティが一緒に遊ぶといった、心温まるほっこりした動画が人気を博しています。これは要するにアニメであり、YouTubeで無料で視聴できるため、子供に見せるのに適していると考えられます。
このようなSNS戦略の結果、キャラクターの人気ポートフォリオに変化が見られます。
2015年3月期には売上の約70%をハローキティが占めていましたが、2025年3月期にはハローキティ50周年イベントで売上が伸びながら、その割合は約35%まで落ちてきています。これは、他のキャラクターやコラボキャラクターの売上がしっかり伸びてきていることを示しています。キティちゃんの露出を増やすと同時に、他の周辺キャラクターへの関心も高めることに成功し、アパレルや家庭用品といった様々な商品カテゴリーへの広がりも見せています。プリキュアのようなアニメと同様に、YouTubeでストーリーを展開することでキャラクターへの没入感を高め、キャラクターグッズへの購買意欲につなげていると考えられます。YouTubeでキャラクターのストーリーを展開するという発想で成功している企業は、案外多くないかもしれません。
サンリオのキャラクターは、過去にもアメリカのセレブがキティちゃんのタトゥーを入れていると話題になるなど、元々高い知名度や人気がありました。こうした無形資産であるIPの力と、それを活用するための戦略がうまくかみ合ったと言えるでしょう。
<IP(無形資産)活用のレバレッジ効果>
サンリオが持つIPは、一度人気が出れば様々な展開にレバレッジが効きます。自社で商品を開発する場合、多くの時間とコストがかかりますが、ライセンスビジネスでは既存の商品にキャラクターをプリントするなど、比較的容易に商品化が可能です。企業にライセンスを許諾し、その対価としてロイヤリティ収入を得るというビジネスモデルは、売上を急速に伸ばしやすい構造と言えます。
ただし、単に何でもライセンス許諾するのではなく、現地のニーズやターゲット層に合わせて、キティちゃんのデザインを調整したり、ゲームや映画とのコラボレーションではユーザーの好みを考慮して衣装などを決めたりと、細かい部分までしっかりコントロールを行っているようです。ライセンス先のメーカーとも打ち合わせを重ねながら進めていると思われます。