<組織改革と効率化>
辻社長は組織の内部と外部双方へのアプローチを行いました。就任時には社員一人一人と話をして、社内の不満を聞いたり、社長自身の考えを伝えたりしたという話もあり、組織全体の改革が進んだと考えられます。
また、商品カテゴリーの整理も積極的に行いました。以前は商品の数が聖域化し、手つかずの状態で、売れない商品が大量に残って廃棄損などの無駄が増えていたようです。これをコントロールし、売れるものはしっかり出し、売れないものは排除するという方針を徹底しました。
同様に、人気のないキャラクターは「お出かけ」するという表現で、事実上リストラを進めています。これは少し残酷に聞こえるかもしれませんが、サンリオらしい遠回しな表現とも言え、無駄をなくすという意図があります。
こうした組織改革や効率化と並行して、YouTube、TikTok、Instagramといったデジタル施策で顧客との接点を増やしていった結果が、今の好調に繋がっていると考えられます。
世界的なIPとしてのサンリオ
サンリオのIPが持つ力は、データでも示されています。
アメリカの調査会社によるIP売上比較のグラフでは、ポケモンが世界累計売上約13兆円で1位ですが、ハローキティ単体でも上位にランクインしています。プーさん、ミッキーマウス、スターウォーズといった巨大IPと並ぶ、あるいはそれ以上の存在感を示しています。
特に、マーチャンダイジング(グッズ関連の売上)という視点で見ると、サンリオは世界1位なのです。ポケモンはゲームやトレーディングカードゲームを含む売上が大きいですが、グッズ単体ではサンリオが上回っています。ディズニーなどもIP管理は厳格に行われているようですが、サンリオは比較的幅広い企業にライセンスを許諾している可能性も考えられます。
ゲームや映画といった他のジャンルへの展開も予定されています。現在、グッズ売上だけでこれだけの数字を出していますが、今後ゲームなどが加わることで、さらなる売上上乗せの可能性もあります。ただし、こうしたゲームや映画は、サンリオ自身が直接制作するよりも、他の会社が制作し、サンリオはIP使用料を得る形になる可能性が高いです。その主な目的は、収益自体よりも、IPの知名度を高め、より多くの顧客との接点を増やすことにあると考えられます。これは任天堂のIP戦略にも近いと言えるでしょう。
今後の見通しと課題
サンリオの中期経営計画では、最終的に”IPプラットフォーマーの灯台”となることを目指すとしています。
これは抽象的な表現ですが、要するにキティちゃんなどのIPを使い、従来のライセンスビジネス、物販だけでなく、映像、デジタル、ゲーム、スポーツ、教育など、様々な分野でIPを活用することで、顧客がサンリオのIPに触れる時間を増やし、接点を広げることが最終的な収益につながる、というメッセージです。
中期経営計画には、数値目標として最終年に営業利益650億円以上、さらにその過程で10年間平均の営業利益成長率10%以上を目指すということも書かれています。時価総額だけでなく、利益目標も設定されていることが分かります。
一方で、サンリオには業績のボラティリティ(変動の大きさ)という課題もあります。特に過去はハローキティへの依存度が高く、キティちゃんの人気が落ちると利益が減るという状況がありました。これをどうにかするために、今はIPの幅を増やしている途中です。