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ついに楽天モバイル「黒字化」…長期投資家は買いか?特殊指標で1億円を“ひねり出した”実態とは=佐々木悠

楽天モバイルがついに「黒字化」したと報じられています。本稿では、その詳細を深く掘り下げて解説していきます。報道を受けて「いよいよ好調で、買いのタイミングが来たのではないか?」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その実態には注意が必要です。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)

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プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。

決算から見える実態は?新聞記者が「本当に記事に黒字と書いていいのか」と質問も

楽天モバイルは、2025年12月期第1四半期決算で、「固定資産税を除くEBITDAで黒字」と発表しました。

これだけ聞くと素晴らしい内容に思えますが、この「固定資産税を除くEBITDA」という指標は、一般的にほとんど耳にすることのない、非常に特殊な会計指標です。

通常の企業決算で用いられる「営業利益」で見てみると、楽天グループ全体では依然として593億円の赤字です。

楽天グループ<4755> 週足(SBI証券提供)

楽天グループ<4755> 週足(SBI証券提供)

楽天グループがよく利用する指標に「Non-GAAP営業損失」というものがあります。これは、国際会計基準(IFRS)の営業損失から、無形資産の償却費、株式報酬、非経常的な項目を差し戻して計算される指標です。これは米国の企業でも用いられることがありますが、それでも80億円程度の改善に留まります。

さらに、このNon-GAAP営業損失から「減価償却費」を足し戻したものが「EBITDA」です。減価償却費は過去に投資した設備費用を分割して計上するもので、実際には現金の支出を伴わないため、これを足し戻すことで利益を大きく見せる手法です。しかし、通信事業のように継続的に多額の投資が必要な企業の場合、EBITDAが高くても注意が必要です。

このEBITDAでさえ、楽天モバイルは65億円の赤字でした。そして、そこからさらに「固定資産税」を除外するという、前例のない手法を用いることで、ようやく1億円の黒字を「ひねり出した」というのが実態です。固定資産税はキャッシュが確実に出ていく費用であり、これを除外することには合理性が乏しいと言えるでしょう。

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実際、この発表を見た新聞記者が「本当に記事に黒字と書いていいのか」と質問したというエピソードもあり、この「黒字化」が通常の会計基準とはかけ離れた見せ方であることを示唆しています。

つまり、この「黒字化」は、まだ楽天モバイルの経営が「非常に厳しい現実」にあることを裏返していると言えます。

売上は着実に伸び、コストも改善傾向

一方で、会計上の見せ方はさておき、冷静にデータを見ると、楽天モバイルの売上自体は着実に伸びてきています。月々の通信料を指すサービス売上やデバイス売上に加え、今期からは楽天エナジーを吸収合併したことにより、売上に貢献しています。

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コスト面も、長期的な視点で見れば徐々に減少傾向にあります。特に大きかったのは、2023年第2四半期に行われたKDDIとのローミング契約の見直しです。これによりネットワーク費用が大幅に減少し、コスト削減に大きく貢献しました。

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現在のネットワーク費用は全体の約500億円を占めていますが、KDDIとのローミング契約は2026年9月末に終了予定とされており、今後さらにネットワーク費用が減少する可能性があります。ただし、楽天独自のネットワークが十分でない場合、契約の再延長の可能性も考えられます。

実態の利益に目を向けると、Non-GAAP営業損失は一時期の950億円のマイナスから、今期は約500億円のマイナスまで改善しています。しかし、KDDIとのローミング契約が終了し、自社設備投資が増えれば、さらにNon-GAAP営業利益が下がる可能性も懸念されます。楽天側は最大投資額の山は越えたと発言していますが、今後の設備投資の動向は注視が必要です。

Next: 楽天モバイルユーザーはどう評価?今後の成長性を分析

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