フロンテオの「怪しい」実態と投資における注意点
今回の膵臓がん関連の発表は、フロンテオが7月23日に自社リリースとして行ったものです。アメリカのオクラホマ大学と共同研究とされていますが、大学のホームページにはこれに関する研究の記載は特段見られませんでした。
さらに、転職サイト「Openwork」のレビューなどから、フロンテオの社内体制にはいくつかの懸念が見受けられます。
- 開発業務の外部委託
- マネジメント層の多忙
- システム化の遅れと人員不足
開発業務が業務委託に丸投げされており、社内にエンジニアやPM(プロジェクトマネージャー)としての採用がないという指摘があります。誰がKIBITのようなAIを手動で開発しているのか、その実態が見えにくい印象を受けます。
マネジメント層も多忙で現場業務しか実施していないという意見もあります。
「AIを売りにしているが、社内のシステム化が進んでいない」という指摘や、「人員不足が問題で、辞めるペースに採用の補充が追いついていない」という声もあります。実際、2017年頃には500名弱いた人員が、現在では200名程度まで減少しています。特にリーガルテック領域の人員減が顕著ですが、AIソリューション領域では人員は増加しています。

- 研究開発費の少なさ
- 経営方針への根本的な疑問
2025年の販管費の内訳を見ると、給与が約10億円であるのに対し、研究開発費は約7000万円と少ない点が気になります。業務委託費としてIT下請けのコストが計上されている可能性もありますが、AI開発企業としては研究開発費がもっと膨大になるはずだという見方もできます。
「根本的に経営方針に問題があり、解決不能であると感じたため退職を決めた」といった厳しいレビューも存在します。今回の自社リリースによる株価上昇は、企業が株価を上げるために「それっぽいリリース」を出すという「プレスリリース芸」の一種である可能性も否定できません。株価を上げて増資を行ったり、他の企業に売却したり、あるいは創業者が株を売却したりといった意図がある可能性も考えられます。
まとめ
フロンテオがライフサイエンスAI分野で成果を出したことは素晴らしい一方で、それが実際にどれだけ収益に貢献するのか、その実態は把握が難しいと言えます。現状はツール販売や共同開発による売上が中心となるでしょう。
株式投資を行う上では、企業の「実態」をしっかり把握することが重要です。今回の株価上昇は、実態以上に期待先行で動いている可能性も含まれています。長期的な視点で投資を考えるのであれば、一時的なブームやリリースに踊らされるのではなく、企業の技術が本当に独自性のあるものか、開発体制は十分か、そしてそれが持続的な収益に結びつくのかといった点を冷静に見極める必要があります。
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年8月09日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。