下方修正後の株価上昇の謎と「米増産」の思惑
下方修正が発表された8月5日頃、クボタの株価は逆に上昇しました。通常、下方修正は株価下落に繋がるため、これは一見不可解です。この背景には、「米増産」に関するニュースがありました。
<石破総理大臣の「米増産」方針>
8月5日頃、当時の石破総理大臣が「米増産」に関する方針を発表しました。
- 日本の米政策の歴史:日本は長年、米の生産過剰を避けるため、1971年頃から減反政策(生産調整)を続けてきました。2013年には国による減反目標は廃止されましたが、実質的には飼料用米への交付金などで主食用米の生産を抑制する仕組みは維持されてきました。
- 方針転換の背景:昨今の米価高騰や供給不足を受け、政府は「米増産」へと舵を切った形です。
- 「スマート農業技術」の活用:この「米増産」の方針の中で特に言及されたのが、スマート農業技術の活用です。高齢化や圃場分散といった日本の稲作が抱える課題に対し、少人数でも作業ができるよう、自動運転トラクターやドローンによる農薬・肥料散布などを積極的に活用するよう促す発言がありました。
- クボタへの期待:クボタはかねてより農業の自動化・無人化を積極的に推進している企業であり、この政府方針を受けて、クボタ株には買いが入ったと考えられます。同様に農業機械を販売する井関農機なども注目されました。
<スマート農業の現状と課題>
しかし、この「スマート農業」に対する期待は、現時点では「連想ゲーム」の域を出ないかもしれません。
- 技術の段階:スマート農業は「ステップ1:搭乗状態での自動操縦(人が乗ったままでまっすぐ進む)」から「ステップ3:遠隔監視での完全無人運転」まで段階があります。現状、クボタの販売する機械の約半分には「ステップ1」レベルの機能が搭載されていますが、「無人自動運転」レベルの機械はまだ数十台単位の販売に留まっています。 「ステップ2(有人監視での自動化・無人化)」についても、大学や政府と協力して研究を進めている段階です。
- 農家の導入障壁:日本の農家は人手不足ではあるものの、必ずしも高収益とは言えない状況です。そうした中で、高価なスマート農業機器にすぐに手が伸びるかというと、難しいのが実情でしょう。
したがって、「米増産」という方向性は良いものの、実際にクボタの機械が生産され、それが農家に広く購入されるまでには、まだ相当な時間がかかると考えられます。
長期的な成長戦略:インド市場開拓の現実と課題
クボタの将来を考える上で、中期経営計画で示された「機械事業におけるインド事業の拡大とベーシック市場への参入」は重要な成長ドライバーとされています。
<なぜインド市場が重要なのか?>
圧倒的な市場規模:グローバルで見ると、世界のトラクター販売台数の41%がインドで占められており、中国、アメリカ、ヨーロッパを大きく上回る最大市場です。クボタにとって、この巨大市場への積極的な参入は必須です。