長期的な市場の見通しと潜在的なリスク
<メモリ市場は長期的に拡大傾向>
キオクシアの開示情報によると、メモリの需要は長期的に見ても伸びていく見通しです。
特にAI化の進展に伴い、各デバイスの平均搭載容量が増加します。
- スマホ向け: 年平均16%の増加(AIスマホの普及)
- パソコン向け: 年平均13%の増加(AIノートPCの普及)
- データセンター向け(Exabyteベース): 年平均27%の増加
フラッシュメモリ市場全体でも、年平均20%ずつ増加すると予想されており、メモリ需要の拡大は長期的な潮流であると言えます。
さらに、キオクシアは市場の拡大を見据えて生産能力を増強しており、新工場で作られた最先端メモリは2026年前半に出荷開始される見込みです。
<長期投資における最大の警戒点:「ジェットコースター相場」のリスク>
長期的な需要拡大が見込まれる一方、半導体メーカーには特有の大きなリスクが存在します。
- 激しい価格競争
- ブルウィップ効果
ライバル企業も巨額の設備投資を行い、製造能力を増強しているため、需要が落ち着いた際には価格競争に陥る可能性があります。
半導体業界では、小さな需要の増減が、川下から川上へと伝わる過程で大きく増幅されてしまう「ブルウィップ効果」が生じやすいです。 この影響で、メモリ関係の売上高対前年比は、プラス100%増える局面がある一方で、60%も減少する局面があるほど、振幅が極めて激しい世界です。
つまり、長期的な需要が膨らむとしても、その間にはジェットコースターのように大きな山と谷を繰り返す局面が出てくる可能性が高いのです。将来的に「売上が60%減少しました」といった事態になれば、株価も同様に、あるいはそれ以上に暴落するリスクがあることを承知しておく必要があります。
<現在のAIブームの不確実性>
現在のAIブームを牽引するGAFAMなどのビッグテック企業は、AI開発競争が激化する中で、適切なキャパシティが不明なまま、とりあえずインフラを整備するために積極的な設備投資を行っている状況にあります。
このインフラ整備の潮流が続く限りは、半導体関連企業は潤い続けるでしょうが、どこで設備投資のストップがかかるかは誰にも予測できません。
結論:投資判断はリスクを織り込むことが重要
キオクシアの株価急騰は、短期的な業績不振を無視し、長期記憶型メモリにおける技術的優位性と、AI需要による供給逼迫という複数のポジティブな外部環境が重なった結果、発生しました。
長期投資を検討する場合、市場は長期的に拡大するという見通しがある一方で、業界特有の大きな需給変動リスク(大へこみする可能性)も同時に存在します。
現在の株価上昇が「バブル」なのか、それとも市場拡大への正当な評価なのかは、時間が経たなければ判断できません。したがって、投資家は、短中期的な波に乗るにせよ、長期的に保有するにせよ、売上が大幅に減少する可能性などのリスクを十分承知した上で、個々に投資判断を下すことが重要になります。
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年10月31日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。