安倍首相は日本人拉致問題の解決を望んでいない
内閣総理大臣を本部長とする「拉致問題対策本部」は、実際の実務は各省庁からの出向者が担当している。もちろん、拉致問題にきちんと向き合おうとする者もいないわけではないが、3年程度の任期ではインセンティブが働きようもなく、柔軟な考え方も上層部に上げられるにしたがい、否定されてしまうようなのだ。
そして、その上層部の長たる拉致問題担当大臣も、組織の発足当初から何人交代したのか、正確な数字を言える者は皆無だろう。実質的にこの大臣というポストは、政権を担う政治家のアクセサリーのようでもある。
そしてこのことは、拉致問題の最上層に位置する総理大臣、安倍晋三氏の拉致問題に対する「本気度」を象徴して余りある。
蓮池氏に言わせれば、安倍首相が本気で拉致問題を解決したいと思っているのか、甚だ疑問であるというのだ。というのも、安倍首相こそが拉致問題を利用してのし上がってきたと、蓮池氏はそう見ているからだ。
いままで、拉致問題は、これでもかというほど政治的に利用されてきた。その典型例は、実は安倍首相によるものなのである。まず、北朝鮮を悪として偏狭なナショナリズムを盛り上げた。そして右翼的な思考を持つ人々から支持を得てきた。アジアの「加害国」であり続けた日本の歴史の中で、唯一「被害国」と主張できるのが拉致問題。ほかの多くの政治家たちも、その立場を利用してきた。しかし、そうした「愛国者」は、果たして本当に拉致問題が解決したほうがいいと考えているのだろうか? これも疑問である。
北朝鮮による日本人拉致問題に対する安倍首相の世間のイメージは、それが稚拙なものであったとしても、当初からこの問題に対しては強弁な姿勢で臨んできた、といったものではなかろうか。
あくまでも拉致被害者奪還にこだわり、平壌でも日本人奪還を主張したとされている。ところが、この本を読めば事実は全くそうではないことに気づかされる。
安倍首相は拉致被害者の帰国後も、一貫して彼らを北朝鮮に帰らせることを既定路線にしていたのだ。