利上げやるやる詐欺
このように、それまで市場に明示していた利上げ時期すらいわなくなってしまったことで、FOMCメンバーは「FOMC会合前は偉そうなことを言っているが、結局景気腰折れを恐れるあまりに、会合では利上げは当面打ち出すことは無い」という「やるやる詐欺師」として見られるようになってしまったのです。
この結果、6月FOMCのドットポイントでは依然として今年の利上げ回数を2回と予想するメンバーが主流だったのに、「どんなに強い指標が出ても、今年は利上げなんてないだろう」とマーケットが考えるまでになってしまったのです。
しかし、7月初旬発表の6月雇用統計だけでなく、8月初旬発表の7月雇用統計までもがコンセンサスをはるかに超過する雇用の伸びを示したことで、再びFOMCメンバーが心変わりしてきたのです。
8月に入ると、ロックハート総裁、ジョージ総裁、ウィリアムズ総裁、そしてFOMC屈指のハト派でイエレンFRB議長の側近であるダドリーNY連銀総裁までもが、近い将来の利上げを支持する発言をし始めています。
6月FOMC会合直後のFOMCメンバーは、「ちょっとくらい強い統計が出ても、明確にターゲットインフレを上回るくらいにインフレ率が加速する兆候が見えるまでは利上げの必要はない」というくらいに利上げに否定的だったのに、2回連続で強い雇用統計が続いただけで再度利上げに対し前向きに変節してしまったのです。
8月はFOMCが開催されませんから、今回のジャクソンホールでのイエレンFRB議長講演は、多くのメンバーがタカ派に豹変する中でイエレンFRB議長の公式な見解が聞ける初めてのタイミングでした。このため、今回のイエレンFRB議長講演の注目度が高くなっていたわけです。
しかし、その一方で、大したサプライズにはならないという見方も根強く残っていました。それは、イエレンFRB議長が今までのFRB議長の誰よりも表現が曖昧で明確な表現を避ける傾向が強いためです。
つまり、「イエレンFRB議長はどうせ利上げ時期を言わないので、年内利上げの確度が上がることもない」という見方をする市場参加者も多かったため、ジャクソンホールでのイエレンFRB議長発言後は利上げ期待の後退で「米株高/ドル安」を予測する見方が多かったのです。
イエレンFRB議長「タカ派」への変節
しかし、今回のイエレンFRB議長講演は、冒頭で書いたように予想以上にタカ派だったと思います。
金曜のジャクソンホールに於ける講演でイエレンFRB議長は利上げに関して以下のことを述べました。
労働市場の堅調さが続いていることや、経済活動とイン フレに対する当局の見通しを考慮すると、フェデラルファンド(FF)金利引き上げの論拠はこの数カ月で強まったと考えられる。
この発言のポイントは以下の点です。
- この数ヶ月で利上げに対する見方が強まった
- しかし、利上げ時期の明示は予想通りなかった
最初のように表現はかなり利上げにポジティブでしたが、利上げ時期は今回も明示されませんでした。このため、米国株やNY為替市場は一瞬利上げ前倒しで反応したものの、「年内利上げについての言及がない」と判断して、利上げ後退による株高・ドル安に反応しました。
この流れが変わり下落に転じたのは、CNBCの質問に対してフィッシャーFRB副議長が以下のように発言したと報道されたからです。