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なぜ北朝鮮の金正恩第1書記は核開発と幹部粛清をやめられないのか?=高野孟

どちらが先に踏み出すのか?

結局、北が核を放棄するのが先か米国が北を核脅迫するのを止めるのが先かという、四半世紀も続いてきた原理的な対立が今なお障害となって交渉の枠組みは再構築できず、結果的に北の核開発の進展に時間を与える結果となってしまった。

米国も手詰まり状態に焦っていて、ケリー国務長官は9月10日には、「もし平壌が、交渉の目標が北の核兵器の放棄にあることに同意するなら、平和協定の交渉に入るつもりだ」と語り、その直後には「金正恩が『非核化の交渉を始める用意がある』とさえ言えばいいのだ」とも述べている。これが従来の米国の、北が先に核放棄を宣言しなければ交渉など始まらないという立場を緩めたことを意味するのかどうか、真意は分からない。

平和協定が成立すれば、米韓vs北朝鮮の国際法上の戦争状態は解消され、当然にも核を含む相互軍縮とそのプロセス管理のための信頼醸成措置の構築も始まる訳だから、交渉の目標に非核化が含まれることには北朝鮮も反対しないだろう。それと、北が核放棄しなければ交渉しないという従来の米国の立場とでは、雲泥の差がある。

金が「非核化交渉の用意あり」と言えばいいんだというのは、もっと大雑把で、北が言う非核化とは上記7・6声明でも明らかなように「朝鮮半島の非核化」であるのに、米国が言うそれは「北朝鮮の非核化であるという食い違いを、ケリーは分かって言っているのかどうか。

こういう「どちらが先か」を巡っての曖昧な言葉の鞘当てみたいなことをいつまで続けていても相互不信が増すばかりなので、ボストン大学名誉教授のウォルター・C・クレメンスは9月23日付ジャパン・タイムズで、一種の「凍結」策を提案している。

まず北朝鮮の核・ミサイル開発を条件付きで凍結させる。「3つのノー」、すなわち「これ以上の核弾頭を作らない」「これ以上に核爆弾の性能を上げるための核実験をしない」「核技術・核物質を輸出しない」の3点を北朝鮮が約束し、その代わりに米国は、北の安全保障上の基本的な不安に真剣に向き合う。具体的には、経済制裁を解除し、休戦協定を平和協定に置き換え、米朝間に外交・経済関係を樹立する。

このような取引は、リスクと不安定をもたらすかもしれないが、北東アジアで制約のない軍拡競争が広がるよりはマシである…。

この「3つのノー」は、北の「我が国は核保有国になった」という主張を事実上認めることになるので、米国としては受け入れがたいのかもしれない。しかし、「核開発を止めるのが先だ」とだけ言って交渉をしないでいるうちに北が本当に核弾頭とその運搬手段を持ってしまって、そうなると一方的に核を放棄させるのは今までよりも100倍も難しくなった。そういう現実を招いたのは、少なくとも半分は米日韓の責任である。その無残な外交的失敗の結末に真摯に向き合って、どうしたら平和協定交渉の入り口に辿り着けるかに知恵を尽くすべき時である。
内外の第一級の北朝鮮専門家はみなそこに焦点を絞って議論を交わしつつある。安倍のように「断固とか決意とか叫んでいても何の役にも立たない

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高野孟のTHE JOURNAL』(2016年10月3日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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