日本時間7月16日未明に発生したトルコのクーデターは、失敗に終わったものの多くの犠牲者を出し、また大量の軍・司法関係者が拘束されるなど衝撃的なニュースだった。
今回のクーデター未遂の報道に接し、私はある1冊の書籍を思い出した。それは今年3月に日本でも出版され、大好評を博した『中国4.0(チャイナ4.0)』(文春新書)の著者であり、戦略思想家のエドワード・ルトワックによる『クーデター入門』(徳間書店)である。
この書籍はクーデターに関する概念本、研究本ではない。文字通り、クーデターの入門書、ルトワックの言うところのハンドブックである。あくまでクーデターの手法を“具体的に”解説した指南書であり、政権を転覆させて奪うテクニックを紹介することを目的としている。
本書が出版されたのは1970年で、ルトワックのデビュー作に位置づけられるものだが、このような書籍が発売されていること自体が驚きではないだろうか。
『クーデター入門』は5つの章で構成されている。
- 第1章 クーデターとは何か?
- 第2章 クーデターはいつ可能か?
- 第3章 クーデターの戦略:軍部、警察、秘密機構
- 第4章 クーデターの計画:6つの目標を中立化
- 第5章 クーデターの実行:前夜、実行、直後
今回は、この本の内容の一部を、私の感想も交えてご紹介しよう。(『インターネット政党が日本を変える!』不破利晴)
著名歴史学者が考える「クーデターを実行しやすい国」の条件とは?
クーデターとは何か?
クーデター、及びクーデターに類似したものとして、以下の7つの類型が紹介されている。
(1)革命
革命は大衆や国民がそれに加わっているのが特徴。そのため政権転覆の手法としてはイメージが良いとされている。
(2)内戦
内戦には常に略奪、簒奪といった“奪う”イメージがついて回る。そのために人気がない。
(3)プロヌンシアミエント
軍部が政権を奪う、いわゆる軍事クーデターを指す。南米などで見られるクーデターがこれの典型である。
(4)ブッチ
軍の指導者による民衆一揆のような形態。地方の政権獲得を目指している。
(5)解放
外国による解放。終戦後の日本なども、これに類似している。
(6)民族解放戦争
宗主国からの独立戦争である。これに勝利すると、植民地は自身の政府機関を樹立することになる。
(7)クーデター
実は、軍事勢力の助けをそれほど受けないのが特徴である。民衆に負担をかけず、上層部の首を挿げ替えるのが特徴。
筆者のエドワード・ルトワックは、近代になってクーデターは簡単になったと言っている。つまり、社会が制度化され、官僚、政治、軍部の区分けが明確になったため、上層部の首のすげ替えがしやすくなったというのがその理由だ。
そして、やる気と材料があれば素人にでもできるため、自分の本は料理の本に似ていると彼は言うのだ。その意味で、クーデターは「民主的」で「政治的に中立」とまで言ってのける。
ちなみに、今回のトルコのクーデターは、上記の類型からすれば「(3)プロヌンシアミエント」に近いことが伺える。本来のクーデターとはいささか趣が異なっているのだ。
いずれにせよクーデターとは、「国家中枢の小さくとも重要な部分への浸透から成り立ち、この部分を利用し政府の支配を置き換えること」を指している。
Next: 日本と北朝鮮、どちらがクーデターを実行しやすい国?