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米国の高齢労働者を襲う悲劇が、日本にとって他人事ではない理由

若者不足で農業を辞められない高齢者たち

85歳以上の高齢労働者は特異なものだが、人種的・宗教的なバラツキはない。また、若年層と違って、多種多様な仕事に就いているのも特徴である。

85歳以上の労働者は、製造業や建築業等の肉体労働ではなく、管理部門や販売部門での知的労働者が多い。詰まるところ、最も著名な労働者の何人かは85歳前後なのだ。

例えば最高裁判事の Ruth Bader Ginsburg は85歳、メディア界の王者Rupert Murdochは87歳、そして投資分野での著名人のGeorge Soros、Warren Buffettも高齢世代なのだ。

しかし、彼らは少数派だ。

85歳以上の高齢者グループで最も多いのは、農業従事者・牧場従事者で、このグループ全体の3.5%にも上る。85歳以下の全グループで見れば、農業・牧場従事者はたったの0.5%でしかないのだ。

つまり若者が入って来ない農業・牧場の世界では、労働人口の高齢化が過去70年に渡って進んできてしまったのだ。

下図の青い折線グラフは、85歳以上の労働人口の増加(大きな変化を調整する12ヶ月平均)を示すものです。2005年の10万人レベルから、2018年5月には25万人弱へと増加しているのです。

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この背景には若い働き手が入って来なくなった農業・牧畜業では、老人が残って仕事をするしかないのです。

米国の農業・牧畜業は、日本と同様に疲弊してしまったのです。

自殺者が多いのも「農業」

そして、自殺率が最高レベルの分野は「農業」との報道もあります。

農業分野の専門家であるChris Hurt氏は、米国の農業が直面する惨状について「現在の収入が15年前からぜんぜん増えていないのだから…後は推して知るべし」と語った。

米国の食糧を支えている人々は、都会と農村での貧富格差の拡大、そして田舎での医療の欠如で、本当に深刻な打撃を受けているのだ。

最近のCDC(アメリカ疾病管理予防センター)の政府統計では、農業従事者の自殺率は、他のどの分野の自殺率よりも高いことが報告されている。

農業・漁業・森林業の自殺率は10万人に84.5人で、全人口自殺率の5倍以上を記録している。全人口自殺率だけで見ても、過去30年間ずっと自殺率は上昇の一途を辿っている。

残念ながら、この調査も完全なものではない。というのは、17州だけの調査統計だからだ。そのうえ、農業州と呼ばれるアイオワ州など主要な農作地帯の統計も抜けているからだ。

また、このカテゴリー分類が「農業、漁業、森林業」従事者というグループにまとめられていることが、この調査を不完全なものにしている。このグループには、漁業労働者・森林労働者も含まれているが、これらは極少数だ。農業従事者は、このカテゴリーでは最大多数なのである。

このCDC調査は不完全と言えるが、他の調査でも同様の結果が出ている。別のCDC調査でも田舎の自殺率が最速で伸びを続けており、現在では史上最高の数字となっている。

農業州のインディアナ州でも、気候変動で苦しんだ農民約6万人が自殺したという結果が報告されている。

出典:Farmers are killing themselves in staggering numbers – CBS NEWS(2018年6月26日配信)

このように農業従事者の間で自殺が増加していますが、その原因は必ずしも気候変動などによる不作を苦にしたものではないようです。

Next: 収入がまったく増えない米農家。売れが売れるほど赤字という例も…

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