米中貿易戦争の果てに、戦後70年続く「ドル基軸の体制」が揺らぐ可能性があります。中国経済の隠された面を覗けば、次なるリーマン危機の危険性も見えてきます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2018年7月5日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ドルの立場が危うくなる? 米中貿易戦争は世界に何をもたらすか
人民元は上げても下げても世界経済を冷やす
トランプは7月6日、中国の安価な輸出に対して25%の追加関税を課す制裁措置を発動しました。一方で、中国はすぐさま米国製品への報復関税を打ち出し、加えて米国債を売るという脅しをかけています。
戦後70年を過ぎた「ドル基軸の体制」を揺るがすのは、もっとも多くドルと米国債を買ってきた中国の米国債売りです(外貨準備3.1兆ドル:341兆円 ※18年4月)。このため、人民元が下落または上昇すると、いずれの場合も、世界の株式市場が下落します。
元高では、「中国の輸出が減る」という懸念から、
元安では、「人民銀行が米国債を売って元を買う」という思惑からです。
GDPは日本の3倍。中国が世界経済を回す
本稿では、1994年の「元切り下げ」以降、輸出主導で成長してきた中国経済をテーマにします。2018年には名目GDPが日本の約3倍になり、中国は世界経済を大きく動かします。
※参考:http://ecodb.net/country/CN/imf_gdp.html
ブルームバーグによると、中国の2018年のGDPは13.2兆ドル(1,452兆円)で、ユーロ加盟の19か国の合計GDP(12.8兆ドル)を上回ります。米国の名目GDPは、中国の1.5倍の20.4兆ドル(2244兆円)。日本は、中国の36%の555兆円となっています。
この通り、日本のGDP(商品生産=所得=需要)は、瞬く間に中国の約1/3に相対縮小しています。中国が日本のGDPを超えたのは2007年でした。その後11年で、日本の3倍になったのです。
中国人による日本の不動産購入が多く、百貨店での化粧品や工芸品のインバウンド消費が多いのも、「GDPの大きさ=所得の多さ」から頷けるでしょう。
中国のGDPは「中身が特異」
輸出型の製造業の発展が急速であり、国民の所得の増加からの国内需要が小さかったので、中国のGDPの中身は、今も特異です。
トランプの対中国の関税は、中国経済の成長の根幹部分に打撃を与えます。GDPの中の輸出が20%と高いためです。
比較すれば、輸出が多いと常に言われる日本の輸出比率はGDP比で12.8%、金額で70兆円です(2016年)。統一通貨ユーロのドイツは、輸出入を合計すればGDP比68%と巨大です。輸出では、日本の約3倍でGDP比35%でしょう。
※参考:https://www.globalnote.jp/post-1614.html
<中国のGDPの構成比>
例によって、中国政府の発表では古いデータしかありません。GDPの数値が、毎年3%くらいは捏造(ねつぞう)されているため、各種データの整合性が取れないからです。
2008年 2009年 2010年
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個人消費 35% 35% 35%
政府最終消費支出 13% 13% 13%
総固定資本形成 41% 45% 47%
在庫品増加 3% 2% 2%
輸出-輸入 8% 4% 4%
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(注)輸出は2.3兆ドル(GDP比20%);輸入は1.7兆ドル(GDP比15%)
中国の総固定資本形成は、政府と民間の設備投資です。個人消費になる住宅の購入も、建設業が建設した段階で総固定資本形成に入っています。個人消費はGDPの35%と異常に小さい。日本はGDPの59%、米国は71%です。
その代わりに大きいのが、総固定資本形成です。リーマン危機の前の2008年は41%でしたが、2010年には、47%に構成比が高まっています。これは何を意味するのでしょうか?