人民元はハード・カレンシー(国際決済通貨)ではない
中国は資本を自由化していません。資本の自由化とは、いつでもいくらでも、外貨への交換(売買)ができることです。
ドル、ユーロ、円、英ポンド、スイスフラン、カナダドル、豪ドルは資本を自由化しているハード・カレンシーです。
ハード・カレンシーは、いつでもいくらでも、外貨との交換ができます。世界からのマネー信用(=経済の信用)が高くないと、ハード・カレンシーになりません。円も、資本が完全に自由化され、ハード・カレンシーになったのは比較的に新しく、金融ビッグバンの1995年からです。
中国で事業を行って、元で利益を得ている海外企業は、外貨規制があるため、利益を自国通貨にするのに苦労しています。ドルでの元買いは自由にできる。しかし、元でのドル、円、ユーロの買いには、政府の認可が必要であり、自由ではない。
人民銀行はドルを買って、元を増発している
人民銀行が、外貨を準備資産にしていることは、元の発行量を増やすには人民銀行がドルを買い増さねばならない。この人民銀行によるドル買いも、ドル基軸通貨体制を支えている大きな要素です。
人民元は、以下の方法でドルを買っています。
- 輸出企業が、輸出代金としてドルを得る
- 輸出企業は、銀行にドルを売って、支払いに必要な人民元を得る
- 銀行にたまったドルを人民銀行が、増発した元で買い上げる(これが人民元の増発になる)
人民銀行がドルを買うのは、ドル高/元安の要素です。人民銀行が人民元を増発するときは、「ドル買い/元売り」、つまりドル高・元安の要素が起こっているのです。
ドル準備制の矛盾
ドル準備通貨制は、対米輸出が経済を主導している中国にとっては、矛盾をはらむものです。例えば、以下の場合です。
<ドル安のときに金融政策は矛盾する>
「ドル安」になるときは、米国の景況が悪いときであり、米国にとっては輸入物価が上がって、輸入が減るときです。
米国の輸入の減少は、世界でいちばん対米輸出が多い中国の輸出の減少を意味します。
ドル安になると、準備通貨のドルの価格が下がるので、人民銀行は、ドルに対応した元の発行を減らさねばならない。元の発行を減らすと、中国の金利が上がり、輸出減で低下していた景気が一層悪化します。
つまりドル安になったとき、人民銀行は元の発行を減らし、悪化した中国景気をさらに悪化させるという矛盾の金融政策をとることになるのです。
<ドル高のときも金融政策は矛盾する>
一方で米国の景況が良く、ドル高になって、米国の輸入が増えるときは、中国の輸出も増えて、輸出主導経済の中国の景気が拡大します。このとき、中国企業のドルが増えるので、人民銀行が銀行から買わねばならないドルも増えます。
人民銀行のドル買いは人民元の増発になって、「ドル高/元安」の要素になるのです。
人民銀行は、中国の景気がいいとき、ドルを買って元安にして、人民元を増発します。これは、中国経済の過熱と資産バブルを生むでしょう。
ドル準備制の人民銀行は、中国経済の景気とは逆の金融政策をとることになる。
これが、元の信用を高めるためのドル準備制の矛盾です。ここからも、中国にとって、世界からハード・カレンシーと認められて元が格上げされることは「悲願」になるのです。