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溶けた年金7兆円。GPIFの「分散投資」が逆効果になったワケ=元ファンドマネジャー・近藤駿介

ゼロ金利のジレンマ~「分散投資」で「分散効果」が得られない理由

「分散投資」がリスク低減効果を発揮するのは、投資対象資産が逆の動き(逆相関)をする時です。

しかし、主要国の政策金利がゼロ金利状態となり、長期金利も0.5%を下回る水準にある環境では、株価下落に伴う損失を債券価格の上昇で埋め合わせるのは困難なのが現実です。日本の新発10年国債利回りは0.4%前後ですから、常識的に考えれば債券価格の上昇は0.4%分しかありません。

ゼロ金利下での資産運用の最大のリスクは、債券利回りが限りなく0%に近づいたことによって「分散効果」が期待できなくなっていることです。

株価は可能性として20%、30%下落することはあり得ますが、利回りが0.4%程度の債券は0金利になったとしても価格は計算上3.2%程度しか上昇しません。

つまり、株式と債券が統計上逆相関であったとしても、利回り低下に限界が見えている債券には株価下落を埋め合わせることはできないということです。

実際に8月には日本株は▲7.36%下落したのに対して、国内債の収益(価格上昇とインカムゲインの合計)は2%に留まっています。6月末時点でGPIFは国内株式22.0%に対して国内債を39.4%ですから、債券価格の上昇によって埋め合わせることができた国内株式の損失は、発生した損失全体の半分程度だった計算になります。

こうした「分散効果」が十分であったか否かの評価は何を優先するかによって異なりますが、GPIFが目指している基本ポートフォリオは、国内債35%、国内株式25%ですから、今後「分散投資」を推し進めていけば行くほど、株式の下落を債券価格の上昇で埋め合わせられることは難しくなっていくことは確かです。

日本国民が直面する“二重のリスク”

金利が限りなく0%に近付くということは、債券という安全資産だけでは必要な収益を確保できないということです。こうした収益面での現実が株式を増やす形で「分散投資」を進めるという運用方針を正当化し、強調して報じられています。

しかし、それに伴って「分散投資」を進めれば進めるほど、株価が下落した際には「分散効果」は発揮されなくなっていくという負の現実は全く語られることはありません。

「分散投資」というもっともらしい言葉を持ち出し「分散効果」が発揮されないポートフォリオに突き進んでいることを、もっと国民に正しく伝えるのが運用の専門家の責務であるような気がしてなりません。

「分散投資」を進めるという名目でGPIFが日本株の投資を増やすとことで日本株に対する上昇期待が高まるのと同時に、政府が率先して「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて投資促進をはかったことで、投資信託の純資産残高は100兆円を突破するまでになりました。

今月開催するセミナーでもお伝えするつもりですが、こうした公的年金と個人投資家が相乗りする形での強気相場、投信ブームの恐ろしいところは、株価が下落したら個人投資家は自らの資産を失うのと同時に、将来年金を受け取れる可能性も低下することです。

こうしたリスクがあることは、なぜか政府も専門家・有識者も一切触れることはありません。もしこうしたリスクに気付いていながら伝えていないとしたらそれは忌々しきことです。また、こうしたリスクに気付いていないとしたら専門家・有識者と称されている方々は皆似非だということになります。どちらにしても個人投資家にとっては不幸なことでしかありません。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年9月13日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。

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