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みんな医療難民に?日本人がいま知るべき「過剰な英語化」の危険性=佐藤健志

「曖昧な感覚」を伝えられる母国語を捨て、英語化を推し進めるとどうなる?

結局のところ、人間の身体というのは、一人ひとり全部違うのですよ。生まれつきの特徴もありますし、今まで送ってきたライフスタイル、さらには性格的な要因によっても変わってくるでしょう。

機械的な計測に頼っているだけでは、こぼれ落ちてしまう点がいろいろあるのです。これは言葉でチェックするしかありません。しかるに。身体をめぐる感覚について、外国語で的確に表現できる人が、果たしてどれだけいるでしょうか?

「痛みは治まってきました。今は傷口のあたりが、ヒリヒリとズキズキの中間ぐらいの感じですね」

「しびれるというより、ビリビリっと来ることがあります。あと、傷のまわりがヒクヒク痙攣するようなときもありますね」

「何もしていないと気になりませんが、腹筋を使ったりすると、引っ張られるのか、グキッとすることがあります」

この3つ、どれも私が実際に使ったフレーズですが、日本語以外の言葉を使って同じことを伝える自信はありません。

だいたい英語圏では、体温は摂氏でなく華氏で測ります。ふだんの体温を聞かれて、「97.7度」(注:摂氏の36.5度にあたります)と答えられますか?

日本語ですら難しい医療用語、英語ではなおのこと意思疎通が困難に

傷の状態や、治療の内容について説明されるときも同様。医療関係の言葉は、専門性の高いものが多いのです。

たとえば事故直後、私の左足は金属の枠によって固定されていました。本格的な手術の下準備として、2次感染を防ぎつつ、折れた骨の位置を整えるためで、「創外固定」と呼ばれる処置です。しかし「とりあえず、足をソウガイコテイしました」と聞いて、何のことかパッと分かる人はなかなかいないでしょう。

また事故の衝撃によって、右耳が外傷性中耳炎になったものの、検査を受けたら「鼓膜の内側にチョリュウブツがあります」とのこと。血液などが漏れ出し、たまることをそう呼ぶのだそうです。漢字で書けば貯留物。

ついでに中耳炎によって生じる、耳が詰まったような感覚は「耳閉感」(じへいかん)と呼ぶらしい。

母国語の日本語でこれです。漢字の力に頼って、どうにか理解している次第。外国語になったらどうなることか。

創外固定や貯留物、耳閉感はもとより、外傷性中耳炎や複雑開放性骨折(骨が複数の箇所で折れたうえ、皮膚を破って外気に触れた状態。私の左足首はそうなっていました)だって、いきなり英語で言われたらサッパリでしょうね。

行き過ぎた英語化に歯止めを

言葉は現実を認識するための重要な手段。かたや身体は、人間にとって最も基本的な現実です。そして医療は、身体を最適な状態に保つためのもの。母国語でなされるべきなのは明らかでしょう。

けれども施さんが警告する通り、日本では英語化を進めようとする動きがスピードアップしています。大学はすでに、その動きに飲みこまれつつある模様。

医療機関だって分かりませんよ。英語特区が実現しなくとも、「日本の医療の国際化を推進するため、英語による診療を行う病院には優遇措置を……」とかいう話になるかもしれないではありませんか。

われわれの健康と生命を守るためにも、英語化の行き過ぎには歯止めをかけねばならない、そう実感した次第です。

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