今月頭の弱い雇用統計以降、世界のマーケットでは利上げ先送り確定とばかりに安心しきったリスクオン傾向が続いています。FOMC関係者は利上げ後退とは言っておらず、逆に年内利上げを支持する発言が相次いでいるのですが、弱い雇用統計と不透明な中国経済のせいで、当面の引き締めはないと決め付けてしまったかのようです。
裏を返せば、マーケットがふたたび金融引き締めリスクを認識した際の急落リスクが高まっているといえます。妄想が続けば続くほど、下げは大きくかつ急激になるでしょう。(元ヘッジファンドE氏の投資情報)
各国中央銀行ウォッチ~期待は期待のまま終わる可能性が高い
【FRB】いつ利上げがあってもおかしくない状態
FRB政策の今後のポイントは利上げ時期と債券回収時期です。
本格的なマネー逆流は保有債券売却(市中からドル札を吸い上げる)でFRBのB/Sを削減し始める再来年以降ですが、利上げをするだけで対外ドル資産が米国に還流するので、グローバルのドル過剰流動性は減少します。
リーマンショック以降長く続いた緩和を引き締めに転じるために、FRBは文言を少しずつ変更し慎重に利上げに向けた地ならしを進めてきました。
ステップ1(~2014年11月):「相当な期間ゼロ金利を維持」
ステップ2(2014年12月~):「相当な期間」と「辛抱強くなれる」の併用
ステップ3(2015年1月~):「辛抱強くなれる」
ステップ4(2014年3月):「辛抱強くなれる」を削除
ステップ5:利上げが適切かどうかについて毎回議論→今年5月から今も
ステップ6:利上げ決定
今は、毎回の会合でいつ利上げがあってもおかしくない状態が続いています。現時点で、FRBが考えている利上げ判断のポイントは以下の点です。
- 労働指標の改善が続く
- インフレ率が2%程度まで上昇
- 以上の事象を確認後に利上げ
インフレ率の判断材料として重要な個人消費支出(対前年同期比)は現在1%程度です。現在は原油安が足を引っ張っているために、前年同期での原油安の影響が消えるまではインフレ率の上昇は見込みにくいです。
しかし、現在の水準が続いたとしても、年末には原油安の影響は完全に消えますので、何もしなければ年明け後にインフレ率が急加速する可能性が出てきました。このため先月のFOMC後にイエレンFRB議長は改めて年内利上げが妥当と発言していますし、FOMCメンバーの過半が年内利上げを支持していると発言しています。
9月の利上げ回避は海外要因、利上げ基調は変わらず
ではなぜ、先月FOMCで利上げをしなかったかというと、FRBにしては珍しく海外要因の不透明さが理由です。
先月のFOMC議事録を読むと、以下のようになっています。
- 利上げ開始が正当化できる状態に近い(国内の労働環境は合格という意味)
- 世界経済の減速が米景気の回復軌道を逸脱させないか確信を得るためにしばし待つべき(少し様子見)
- とはいうものの年内に利上げすべきで、金融市場の動向が米経済の先行きを著しくは変えない
一番上の文言から出てくるのは、「国内労働指標は既に完全雇用状態なので、今後多少悪くても問題なし」です。一度判断した以上、その後の指標が悪くても後戻りできないでしょう。もし海外経済が問題なければ利上げをしていたのです。なので、9月の雇用統計が悪いとかくらいで見解を変えるはずはありません。
次の文言は、世界経済が不透明なので利上げが危険とは言っていません。影響を見るために、少し時間の猶予が必要と言っているだけです。
では、時間の猶予とはどのくらいなのでしょう?弱い雇用統計後のマーケットが期待しているように、来年3月まで時間的な猶予が必要なのでしょうか?それは次の文言で書いてあります。
「そうはいっても、年内に利上げはすべき」なのです。そして、釘を指すように以下の文言も付け加えています。「金融市場の動向が米経済の先行きを著しくは変えない」
この意味するところは、「利上げが怖くなったからと言って、株が多少下がったくらいでは利上げは先送りにしません」ということです。つまり、催促相場をしても無駄ですよと言っているのです。
この議論内容のどこが超楽観相場の根拠になったのでしょう?
要人発言からも年内利上げが有力
次に世界経済に対してどの程度深刻に見ているのかについてですが、IMFの見通し以上に悲惨な見方をするはずはありません。そのIMFの見通しは、毎年10月上旬に改訂され、今回も世界経済の見通しを下方修正していますが、肝心の中国は修正していません。
新興国、先進国に関わらずおしなべて下方修正させていますが、当の中国当局の統計数字が捏造なので、それを使っている以上当然ですが、肝心の中国経済は下方修正していないのです。
つまり、FRBが「世界経済が不透明」と言っているのはこの程度なのです。我々日本人投資家が中国バブルが崩壊するのではないかと危惧するようなレベルの不透明さではない以上、今回の先送りは、この数ヶ月急に不透明になったので数ヶ月様子を見る程度のものだと考えるのが自然だと思います。
しかし、にも関わらず、世界のマーケットは月初に発表された弱い雇用統計以降、「利上げは当面ない」とはしゃぎ続けています。
これに対して、先々週はラッカー総裁、フィッシャー副議長の二人が「年内利上げをします」と改めて釘を刺し、先週はさらに複数要人が年内利上げ支持を表明しています。特にメスター総裁は非常に強いトーンで、利上げ後連れの危険性を指摘しています。
ロックハート総裁はハト派ですが、この発言を見ると選択肢は10月か12月という言い方をしていますので、ハト派の氏でも早期利上げを支持していると思われます。
結果、年内利上げに慎重なのはブレイナード理事とタルーロ理事、コチャラコタ総裁くらいかと思われます。
また、公定歩合に関する議論でも、利上げ派が過半を占めています。
何か「危機」でも起こらない限り利上げ先送りの可能性は低い
ここまで大勢が年内利上げを支持しているのに、月初発表の弱い雇用統計後に初回利上げのマーケットコンセンサスは12月から3月以降へと一気に3ヶ月ずれ込んでしまったのです。しかし、記事のどこを読んでも、弱い雇用統計に関しての懸念の記述が見当たりません。
以上を考えると、単月程度の弱い雇用統計でFRBの見方が変わるとは思えず、海外経済の不透明も数ヶ月程度の様子見をするだけで、それで大きな政策変更をするものではないと私は判断します。
したがって、私の予想する利上げ時期と幅は先週と変更はありません。
第1回目 12月FOMC(可能性90%)
第2回目 3月FOMC以降
従来、年内利上げがないときの世界観として、中国株が2000ポイント程度まで下落するとか、中国発の世界経済減速の恐怖が巷間に広く知れ渡り、新興国を始めとする世界的な市場が混乱を生じる事態を想定していました。
しかし、上のFOMC議事録で見たように、「ちょっとくらい金融市場が混乱しても年内利上げをします」と言っている以上、単に株式市場が下がるだけでなく、比較的大きな新興国がデフォルトになるなど、不安ではなく危機にならない限り利上げは行われると思われます。つまり、FOMC議事録を受け、従来より催促相場をしても利上げ先送りの可能性は低いと判断を変えました。
このように、多くの要人の警鐘にも関わらず、弱い雇用統計後の世界のマーケットは勝手な判断で半年は利上げがないと決め付けて安心しているため、中央銀行と市場との見方が著しく乖離してきています。
通常、こうしたときは、要人発言でマーケットの妄想の暴走が止まるきっかけになりやすいために、今週もFOMC関係者による利上げ時期をめぐる発言が非常に重要になります。
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