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新規上場したトゥエンティーフォーセブンは、新鮮な体験ができるジムへ転換できるか

体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客がパーソナルトレーニングジムを雇うとする際に障害となり得るのは、一つにはトレーニングが長続きしないこと。また、マンツーマンで対応することになる同社のトレーナー・講師と相性が悪いことも障害となり得ます。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、顧客は「後ろにくるりと一回転するだけで人生が変わる」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

同社が展開するパーソナルトレーニングのコンセプトは次のようなものです。

最短2ヶ月で理想の体型に導くべく、プロのトレーナーによる完全個室、マンツーマンでトレーニングや食事指導、モチベーションのケアなどを行っております。

これは、明らかにバク転とは異なる指導方法です。したがって、社内プロセスの都合という意味で同社の課題となるのは、まずは企業がしたいことである価値基準にバク転の指導を加えることです。それはもちろん、現場のトレーナーも同じです。そのうえで、顧客と直接接することになるバク転指導のトレーナーを育成する必要があります。また、同じバク転の指導をする競合と差別化を図るという意味では、アウトドアジムを検討してもいいかもしれません。バク転は、基本的にマットがあればできるので、それに適した場所があれば即席ジムが短時間で完成します。

ちなみに、「結果にコミットする」というCMで有名になったライザップでは、現場のトレーナー向けに実践トレーニングを実施しており、給料は月給に加えて顧客のコミット率に応じた報奨金が与えられます。そして、これら以上に重要となっているのは、トレーナーと価値観を共有して職場定着率を高めていることです。

では、同社がこうしたバク転の指導に乗り出すのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社はリトル・ハイア「顧客がバク転に挑戦した回数」を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
ドキュメント72時間 「バク転教室 明日に向かって跳べ!」‐NHKオンデマンド
大和リース、全国6都市の商業施設にアウトドアフィットネス商業施設「コミュニティ パーク」を開業‐日本経済新聞
・TBS「がっちりマンデー」(2018年8月5日放送)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月14日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月14日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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