2022年7月8日は、日本の歴史に残る転換の日として記憶されることだろう。安倍元首相は第26回参議院選挙の遊説中に、山上徹也容疑者によって背後から銃撃されて死亡した。この殺害事件は、3つの点で同種のテロがこれから日本で拡大する可能性を示唆している。安倍元首相の殺害の意味を、いくつかの異なった視点から考えたい。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2022年7月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
「無敵の人」の不満は限界に達している
これはどうしても一度はきちんと書いておかねばならない内容だ。安倍元首相の殺害の意味を、いくつかの異なった視点から見てみる。
2022年7月8日は、日本の歴史に残る転換の日として記憶されることだろう。奈良県、大和西大寺駅の近くで 7月10日に行われる第26回参議院選挙の遊説中に、山上徹也容疑者が背後から銃撃され、安倍元首相は死亡した。元首相殺害の激震は、日本のみならず海外にも走った。
この殺害事件は、3つの点で同種のテロがこれから日本で拡大する可能性を示唆している。
1つは容疑者は特定の宗教団体によって家族がバラバラになったと逆恨みした単独犯の犯行であるという点だ。2つ目に、容疑者は過激思想を持つ特定の集団の指令で行った犯行ではない点だ。そして3つ目は、銃撃に使われたのは手製の武器であったという点だ。
これら3点から、同種のテロは政治家を殺害する動機のあるものであれば、基本的には誰でも実行可能であることを示した。
残念ながら日本では、これから政治家やエリートを狙った同種の殺害事件が多発するものと思われる。それというのもいまの日本では、社会に対するストレスが沸点に達しており、いつ爆発してもおかしくない状況だからだ。
30年近く続く低賃金状態、拡大する格差、放棄された終身雇用、拡大する派遣と低賃金労働、若者や女性を中心とした自殺の増加などという多くの国民が直面する苦しい状況がある一方、企業の巨額な内部留保金、日銀が演出する高株価とミニバブル、所得を増加させた富裕層、有効な政策を出せずに停滞する政党政治などの現象がある。
こうした長年続く極度の閉塞状態に苛立つ国民は多い。そしてそのストレスを、派遣と低賃金労働に喘ぎ、ある程度の学歴があるにもかかわらず、結婚もできず将来も見えず、生きる意味と希望を失った「無敵の人々」が集中的に表出するようになっている。
したがって、安倍元首相の殺害は、日本社会で沸点に達したストレスを表出する「無敵の人々」に、新たな表出方法の可能性を示したのである。つまり、要人殺害という方法である。
ストレスを爆発させる段階
これまで日本では、社会のストレスの表出方法は段階的に変化してきたように思う。
最初は自殺だ。社会に恨みを持つ人々が静かに死んで行く。次は公共の場で不特定多数の人々をターゲットにした暴力だ。電車内での人の殺害、レストランやネットカフェでの立て籠もりのような事件だ。
そして次の段階が、安倍元首相の殺害のような日本の要人を狙った犯行である。
いま、社会のストレスの発散は、第三段階に到達した感がある。安倍元首相を殺害した方法は、社会に一矢報いて死ぬ覚悟をした無数にいる「無敵の人々」に、「そうか!この方法がある!」というインスピレーションを与え、そのバイブレーションはSNSで拡散することだろう。