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モノマネ中国の時代を終焉させたアリババ、テンセント、Zoomの台頭。中華圏スタートアップがシリコンバレーを越える日=牧野武文

日本人の中には、中国はパクリ商品だらけの国というイメージを持つ人は多いだろう。しかし、中国はモノマネから完コピの時代を経て、オリジナルビジネスの開発するようになり、驚くスピードで進化を遂げている。これからは中国から新しいサービスが生まれる時代となっていきそうだ。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2022年8月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

中国モノマネ時代の終焉

今回は、Copy to ChinaとCopy from Chinaについてご紹介します。

Copy to Chinaとは「コピーして中国に」という意味です。80年代から始まった中国の改革開放は、さまざまな技術、ビジネスモデルを海外からコピーすることで始まりました。これはかつての日本でもそうであったように、どの国の発展過程でも最初はコピーすることから始まります。ちょうど、ギターを始めた中学生が著名な曲の完コピを目指すのと同じです。

しかし、もはや中国はCopy to Chinaではなくなり、独自に新たな技術開発、ビジネスモデルの構築ができる国になっています。と言っても、まったくコピーがなくなっているというわけではありません。なぜなら、いかに斬新なビジネスであっても、そのビジネスが今までまったく存在しなかった100%オリジナルということはあり得ず、既存のビジネスモデルにヒントを得て、課題点を解決するなどして、新しいビジネスモデルが生まれてくるからです。

アマゾンも模倣ビジネス

例えば、世界で最初のECサイトがどこであるかはもはやわからなくなっていますが、最も成功をしたのは、オンライン書店からスタートしたアマゾンであることは疑いはありません。アマゾンは玩具や家電などにも取り扱いを広げ、総合ECとして世界中で利用されています。

では、アマゾンはそれまで誰も考えつくことのないビジネスだったのでしょうか。そうではありません。米国人であれば、シアーズ・ローバックのメールオーダーという先行事例を誰もが知っています。カタログを見て、郵便で注文をすると、商品が宅配されてくるというカタログ通販です。

サービスの開始は1893年で、130年前のことです。NHKでも放映され人気となったテレビドラマ「大草原の小さな家」は、まさしくシアーズのメールオーダーが始まった西部開拓時代にあたり(原作では少し時期がずれています)、劇中にメールオーダーの話が出てきます。子どもたちが近所のお手伝いをしてお小遣いを稼ぎ、駅前の雑貨屋でカタログを見ながら、クリスマスプレゼントを探すというシーンです。その様子は、今の子どもたちが、アマゾンで玩具を探している様子とそっくりです。

さらにシアーズは、家の通販まで始めました。家の組み立てキットを鉄道を使って駅まで配送し、地元の大工に建ててもらうというものです。大陸横断鉄道の物流を利用した通信販売だったのです。シアーズは当時から「買えないものはない」「満足いかなかったら全額返金」を強調していました。

アマゾンを創業したジェフ・ベゾスがシアーズのメールオーダーを知らないはずはなく、アマゾンの創業時には大きなヒントになったはずです。しかし、だからと言って、「アマゾンはシアーズのパクリ」と言ったら、多くの人が一笑に付すでしょう。確かに、最初のアマゾンはシアーズのメールオーダーをオンラインオーダーに逐語翻訳しただけだったのかもしれませんが、その後、オンラインの特性を活かしたり、消費者の特性により改善を加えたりして、もはやシアーズとはまったくの別物になっています。

アリババとebayの戦い

ビジネスというのは、市場の要求に応じて常に変化をしていくもので、この変化をしないビジネスは脱落をして淘汰をされていきます。逆に言うと、ビジネスの最初の発想は真似でかまわないのです。ある優れたビジネスを見て、その課題を発見し、改善した形でスタートをする。スタート後は常に変化を積み重ねていくので、先行事例とはまったく違ったビジネスに成長する。それが業界全体を進化させることにつながります。

中国のテックジャイアントを表す言葉BATは、百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、騰訊(Tencent)を指していますが、その始まりは、3社とも先行事例のコピーです。

アリババの中核事業であるEC「淘宝網」(タオバオ)は、米国のeBayを模倣することから始まっています。アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、eBayが中国進出をする前に市場を確保したいと考え、かなり焦ってタオバオのビジネスを構築しています。2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大があり、ECにとっては絶好のチャンスが到来したこともありました。

これはいわゆるタイムマシンモデルです。海外で流行をしているビジネスモデルを模倣して、オリジナルが進出をしてくる前に市場を確保してしまうという戦略です。

しかし、eBayの中国進出は思ったよりも早く、タオバオはまだ成長し切らない段階で、eBayと競争をしなければならなくなりました。これがタオバオを大きく変えることにつながっていきます。

タオバオは、出店料や販売手数料をすべて無料にしました。eBayは有料です。これで出品者を確保しようとしました。出店料も販売手数料も無料でどうやって利益を出すのか。これは後にタオバオの大きな課題になりました。すでにこのメルマガでも何度も触れていますが、タオバオ参加業者の間で競争が起きる状態を保ち、広告や有料キャンペーン参加を促すことでタオバオは収入を得ています。

また、eBayは原則CtoCの個人間取引が基本のフリーマーケットサービスで、タオバオも当初はCtoCでしたが、中国の市場の特性から小規模小売店が販売業者として出店する例が多く、実質的にBtoCに近いECとなりました。

このように中国市場の要求によって、そしてeBayとの競争によって、ビジネスモデルがどんどん変化をし、今のタオバオとeBayは取引される商品の傾向や利用者層がまったく異なるようになりました。中国で最も成功したタイムマシンモデルの例になっています。

Next: メッセンジャーアプリを中国に最適化させたテンセント

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