三洋貿易<3176>は、合成ゴムや化学品、自動車関連部材、サステナビリティ関連機材、ライフサイエンス関連商材など、産業用途に特化した高付加価値商材を幅広く取り扱う専門商社。事業はファインケミカル、インダストリアル・プロダクツ、サステナビリティ、ライフサイエンスの4セグメントで構成され、いずれも「ニッチ分野における専門性」を軸としたビジネスモデルを展開している。規模拡大型の商社とは異なり、企画段階から量産、アフター領域まで一貫して関与することで、価格競争に陥りにくい収益構造を構築している点が同社の最大の強みだ。
2025年9月期の連結業績は、売上高1,327億円(前期比2.7%増)、営業利益64億円(同9.1%減)と増収減益で着地した。トップラインおよび売上総利益は過去最高を更新しており、事業基盤自体は堅調に推移している。一方で、営業利益の減少は人員増強に伴う人件費増、基幹システム刷新などのIT投資、M&Aに伴うのれんの一括償却といった成長投資負担が主因であり、需要減退による構造的な悪化ではない点は押さえておきたい。
セグメント別では、サステナビリティ事業の成長が際立つ。同事業の売上高は135億円(前期比38.4%増)、営業利益は18億円(同56.5%増)と大幅な増収増益を達成した。木質バイオマス関連の大型案件に加え、海洋調査・資源開発向け機材の需要が拡大し、業績を力強く牽引した。特に洋上風力や海洋開発分野は案件のリードタイムが長いものの、受注獲得後の収益規模が大きく、中長期的な成長ドライバーとして位置付けられている。一方、2026年9月期は海洋関連案件の計上が端境期に入る見込みであり、一時的な減速は避けられないが、2027~2028年にかけて再び回復するシナリオが描かれている。
ファインケミカルおよびインダストリアル・プロダクツでは、EV関連商材の欧州向け輸出や中国市場の減速が逆風となった。特に中国では日系自動車メーカーの減産が続いており、自動車内装関連を扱うインダストリアル分野で売上・利益ともに伸び悩んだ。一方で、北米では自動車関連事業が堅調に推移しており、地域分散による下支え効果が確認できる。ASEANではタイが比較的好調で、自動車関連向けの価格改定効果もあり利益面での貢献が続いている。
ライフサイエンス事業は、売上高は前期比ほぼ横ばいと底堅く推移したものの、営業利益は21.4%減となった。これはバイオ関連機器における代理店契約終了の影響が主因であり、同社としては想定内の一時的要因としている。影響は2026年9月期第1四半期まで残る見通しだが、EVや半導体向け電材、機能性飼料原料などの基幹商材は好調であり、利益構造は徐々に改善していくとみられる。
2026年9月期の業績予想は、売上高1,300億円(前期比2.0%減)、営業利益62億円(同3.6%減)と小幅な減収減益を見込む。サステナビリティ事業の一時的な減速や、中国市場の不透明感を織り込んだ保守的な計画といえる。ただし、ファインケミカルでは価格改定効果、ライフサイエンスでは電材需要の拡大が見込まれており、下振れリスクは限定的と考えられる。
長期経営計画「SANYO VISION 2028」では、営業利益90億円、ROE10~12%、PBR1倍超を目標に掲げる。成長投資としては200~300億円を計画しており、M&Aや新規事業開発を通じて事業ポートフォリオの高度化を進める方針だ。
インダストリアル分野では、2025年10月に自動車用エアコン関連部品の販売を手掛けるシンガポール企業EMAS SUPPLIES & SERVICESを子会社化した。新規領域では、EVを分解・解析して得られるデータを販売する自動車ベンチマーキング事業や、EVバッテリーの状態を約30秒で測定可能なテスターを中国メーカーと共同開発するなど新規領域の育成を進めている。ファインケミカルでは、フッ素ゴムに撥水性などの付加機能を付与して用途拡大を図るとともに、欧州市場向け環境対応型製品を新たな成長分野として開拓する方針。サステナビリティ分野では、子会社のコスモス商事による政府関連案件として、南鳥島のレアアース開発向け機材貸与など資源分野での収益機会を取り込んでいる。
株主還元については、配当性向30%以上を目安とした安定配当を基本方針とし、13年連続で安定配当を継続している。2026年9月期の配当予想は58円で、配当利回りは約3%台後半と専門商社の中でも相対的に高い水準にある。成長投資を進めつつも、株主還元とのバランスを意識した資本政策は評価できよう。
総じて三洋貿易は、短期的には成長投資負担や市況要因により減益局面にあるものの、ニッチ分野に特化した高付加価値型ビジネスモデルと、サステナビリティを軸とする中長期成長戦略は明確である。2028年に向けた利益回復シナリオの進捗と、サステナビリティ事業の再加速が、今後の株価評価を左右する重要なポイントとなろう。
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