■要約
アンジェス<4563>は、1999年に設立された大阪大学発のバイオベンチャーである。ビジョンとして「遺伝子医薬のグローバルリーダーとして、未だ有効な治療法が存在しない疾患に革新をもたらし、世界中の人々のQOL(生活の質)向上に貢献」することを掲げている。2020年に先進ゲノム編集技術の開発を行うEmendoBio Inc.を子会社化し、2021年には国内で希少遺伝性疾患向け拡大新生児スクリーニング検査を行う衛生検査所「アンジェスクリニカルリサーチラボラトリー(以下、ACRL)」を開設し、検査受託サービスを開始した。
1. HGF遺伝子治療用製品の開発方針
2025年8月に同社は、米国で軽度から中等度の包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)を対象に開発を進めているHGF遺伝子治療用製品について、生物製剤認可申請(BLA)に向けた準備を進める方針を決定した。併せて、原薬供給先であるBoehringer Ingelheim Biopharmaceuticals GmbH(以下、ベーリンガー)と同製品の上市を視野に入れた、新たな製造体制構築のための受託開発・製造契約を締結した。現在は、製造体制の構築と米国食品医薬品局(以下、FDA)への承認申請の準備を進めており、最短で2027年に申請及び承認を得られる見通しだ。また、大手製薬企業との販売ライセンス交渉については学術誌への論文(詳細版)発表を待って、2026年から本格的に活動を開始する予定で、承認申請までに契約締結を目指す。同社は調査会社から同疾患の米国内の対象患者数が約50万人と報告を受けており、これら患者への投与が進んだ場合、売上ポテンシャルとしては1千億円超の規模になると弊社では見ている。
2. その他パイプラインの状況
慢性椎間板性腰痛症を対象としたNF-κBデコイオリゴDNAの国内第2相臨床試験は、2026年前半の被験者登録完了、2027年内の試験結果発表を目指す。
カナダのVasomune Therapeutics, Inc.(以下、Vasomune)と共同開発を進めるARDS治療薬「AV-001」は、北米での前期第2相臨床試験の完了及びトップラインデータの発表時期が2026年前半ころになる見通しである。新たに血液透析患者の脳損傷予防を目指す医師主導治験を開始することが決定し、同社は適応疾患を拡大する契約を2025年11月に締結した。
また、子会社のEmendoBioはスウェーデンのAnocca AB(以下、Anocca)との間で、2024年に締結したOMNIヌクレアーゼ「OMNI-A4」に関する非独占的使用権契約の対象範囲を拡大することに合意した。Anoccaは難治性固形がんを適応対象としたTCR-T細胞療法の開発を進めており、今後「OMNIヌクレアーゼ」を用いた開発パイプラインの増加により、契約一時金及びマイルストーン収入の増加が期待される。現在、海外製薬企業2社でOMNIヌクレアーゼの技術評価を進めており、2026年内に新たなライセンス契約先が決まる可能性もある。
3. 業績動向
2025年12月期の通期業績見通しは、事業収益が880百万円(前期比236百万円増)、営業損失が6,270百万円(同2,839百万円減)と、期初計画からそれぞれ470百万円引き下げた(営業損失は拡大)。Anoccaから見込んでいたライセンス収入が開発スケジュールの遅れにより2026年にずれ込む見通しとなったことが主因だ。前期比ではACRLの検査手数料収入の拡大が主な増収要因となり、営業損失は前期に計上したEmendoBioに係るのれん償却額3,322百万円がなくなったことが縮小要因となる。なお、2025年9月末の現金及び預金残高は3,552百万円となったが、同年11月に第三者割当による新株予約権(株式数換算で96,466千株、下限行使価額40円)を発行し、今後行使を進めることで事業活動資金を調達する方針だ。当初行使価額の72円ですべて行使できれば約69億円を調達でき、調達資金はHGF遺伝子治療用製品の上市を最優先に充当することになる。
■Key Points
・HGF遺伝子治療用製品の臨床試験結果が有力学術誌に掲載、2026年からライセンス交渉を本格始動
・「AV-001」は2026年内に臨床試験結果を発表、新たな適応症でもライセンス契約を締結
・海外企業2社でOMNI技術の評価試験を実施中、ライセンス契約に発展する可能性
・第46回新株予約権を発行し、HGF遺伝子治療用製品の米国での申請に向けた資金等に充当
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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