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なぜ日本政府は危機に弱いのか。迫る3つの厄災、「責任逃れ」を許す意思決定システムの欠陥で亡国へ=高島康司

予想外の危機が迫りくる

もちろん、これから起こる危機がすべて予見可能かと言えばそうではない。多くの場合、危機とは、予想外の出来事の連鎖である。

危機は、最近日本国内の随所で頻繁に発生している突発的なゲリラ豪雨に似た性質をもっている。

ゲリラ豪雨は、上空の大気が不安定になって発生した積乱雲が原因となって起こる。通常だと積乱雲は、10分くらい続く夕立を引き起こすだけで、1時間に200ミリというような集中豪雨なみのゲリラ豪雨の原因になることはない。だが、気象庁の予測を完全に裏切り、夏の熱波を冷やしてくれる夕立が、突如としてゲリラ豪雨に発展し、洪水を引き起こしたり、都市の交通を麻痺させる自然災害を引き起こしたりするのだ。

危機に発展する多くの出来事も、これと同様の予測不可能な特徴を持つ。

しかし、そうではあっても、危機に発展する可能性のある出来事くらいは、いまの時点でも列挙できる。以下である。

危機その1:新型コロナウイルス第6波

新型コロナウイルスは、2カ月半から3カ月の波で蔓延を繰り返す。それぞれの波は新しく出現した変異種の拡大によって引き起こされる。しかし、変異種の増殖が続くと遺伝子のコピーミスが重なり、一定の期間を経るとウイルスは自己崩壊し、蔓延の波は終息に向かう。しかし、しばらくすると新しい変異種による新たな波が始まる。

いま日本ではデルタ株による第5波がピークアウトし、終息に向かっている。9月の第4週目くらいになると、全国的にも新規感染者数は大幅に減少することだろう。その後、1カ月半くらいは感染拡大が押さえられた静穏期に入る。しかし、その後、しばらくするとミュー株やラムダ株などの新しい変異種が主導する第6波が始まる可能性が高い。

すでに効果的なワクチンがあり、また特効薬の候補も開発されつつあるので、第6波が始まったとしても感染者数や死亡者数は多くはならないかもしれない。しかし反対に、ワクチンの作り出す抗体を回避する能力や、治療薬に反応しない能力などを新しい変異種が獲得すると、第6波は予想外に危険なものになる。感染者数は第5波を越え、重症化率も増加するかもしれない。いまのところこうなるとは断言できないが、可能性は否定できない。

危機その2:米軍のアフガン撤退以後の地政学的な変化

新型コロナウイルスのパンデミックの他に危機の震源となる可能性があるのが、米軍のアフガン撤退以後の地政学的な変動である。

このメルマガの過去の記事にも書いたように、米軍の拙速な撤退によるアフガニスタン政府と軍の崩壊、そしてタリバンによるアフガン全土の掌握は、予想外の出来事であったわけではない。アメリカの情報機関は、かなり以前からタリバンやアフガニスタン政府軍の動きを詳細にモニターしており、このような結果になることは予想できていた。アフガニスタンにおけるタリバン支配の容認は、バイデン政権の意図的な政策として実行されたものである可能性が高い。

それは、1979年のアフガン紛争のときのように、イスラム原理主義勢力を支援することでソビエトを疲弊させたように、今度はアフガニスタンをテロの温床として混乱させ、周辺国である中国とロシアに関与させ、これらの国々の国力を消耗させるという意図的な戦略の可能性がある。これは、1979年に大統領補佐官であったズビグニュー・ブレジンスキーの立案したものを、今度は中国を対象に適用するのだ。

おそらくアメリカは、中国やロシアと直接的に対峙するのではなく、中ロが国力を消耗させざるを得ない国際環境を作ることで、これらの国々の拡大を抑止する戦略に転換した可能性がある。

中国の「一帯一路」には6つの経済回廊がある。アフガニスタンは、「中国・パキスタン回廊」と、「一帯一路」のハブのひとつであるカザフスタンを通り、ウズベキスタンとトルコメニスタンを経由する「中国・中央アジア・西アジア経済回廊」という2つの重要な回廊のちょうと中間に位置している。これらの回廊は中国経済の重要な背骨のひとつになりつつある。

もしアフガニスタンがテロの温床となり、これらの経済回廊の国々でIS系武装組織のテロが増加し、さらに不安定になったアフガニスタンから約260万人の難民がこれらの国々に流入すると、「一帯一路」の中核でもあるこれら2つの経済回廊は不安定化する。これは中国経済にとって大打撃だ。さらに、この地域の安定を維持するために中国が軍事介入するようなことにでもなれば、中国は国力を消耗することにもなる。

また、中ロの国力消耗戦略に舵を切ったアメリカは、東アジアでも同じようなことをする可能性も否定できない。台湾海峡や南シナ海の情勢をあえて不安定にする事態を誘発して、中国にとって不可欠なシーレーンや「一帯一路」の一部を遮断し、中国を経済的に圧迫するのである。もちろん日本にとっても同じシーレーンは不可欠なので、これは大きな打撃となる。

これは絶対にあり得ないと思うかもしれないが、同盟国であるアフガニスタンを見捨てたと同じように、追い詰められたアメリカは、中国とロシアの拡大を抑止するためには、日本や韓国、そして台湾のような同盟国の利益を犠牲にする可能性もある。

万が一でもこのような状況になれば、日本にとっては危機だ。

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