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財務省の話をよく聞く岸田内閣。税制改正大綱で見えた「先送り」体質と日本経済の苦境=澤田聖陽

賃上げ促進税制:効果は期待できない

今回の改正では、企業の賃上げを後押しする税制が拡充される予定である。

賃上げや教育訓練などの企業の取り組みによって、対象となる金額を法人税の課税所得から差し引く制度である。

対象企業の規模によって、大企業と中小企業に分けられており、大企業は控除率が現在の最大20%から30%に、中小企業は最大25%から40%に拡大される。

まずこの賃上げ税制の効果がどれだけあるかという点だが、すでに効果は限定的ではないかという意見が出ている。

例えば、今回の改正では、大企業の場合、給与総額が前年度比で3%以上増えれば、雇用者全体の給与総額の増加分の15%を法人税から差し引き、4%以上増えれば25%を差し引くとされている。

この制度は、以下のような問題点があると考える。

・給与総額が前年比で増加しているかどうかという点と対象となるかどうかを絶対的な判断基準としているため、リストラで優秀な社員の報酬を上げ、パフォーマンスの悪い社員の報酬を下げるという企業は対象にならない可能性がある。

・日本の雇用慣行では、一度雇用した正社員は余程のことがない限り解雇や賃下げができないため、給与総額が上がれば控除が受けられるとしても、新規の雇用には繋がりにくい。

・日本においては、社会保険の企業負担がかなり大きく、賃上げで法人税の控除ができても、社会保険の負担が増える可能性があるような賃上げや新規雇用には繋がりにくい。

日本の厳しすぎる解雇規制は、雇用の流動性を阻害しており、結果として労働者自身の首を絞めている。また企業側は、前述のような日本の雇用慣行の下では、新規雇用に慎重になるのは当然だろう。

税制による賃上げの促進は必要だとは思うが、日本的雇用慣行(バブル崩壊後のこの日本的雇用慣行は「終身雇用的雇用」と呼ばれる。※終身雇用ではなく終身雇用“的”雇用である)に本格的にメスを入れないと、本格的な賃上げには繋がらないと考える。

Next: ベンチャー育成には足りない「オープンイノベーション促進税制」

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