労働軽視で低賃金を容認してきた政府が、ついに賃上げに本腰を入れ始めました。この転換が実現すれば、長年続いていた賃金デフレが終焉を見ることになります。しかしながら、人件費の削減が難しくなると、価格転嫁による物価上昇が広がり、想定外のインフレが進む余地があります。これは金融政策にも影響します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年1月24日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
先進国のトップグループから転落した日本
日本では「大寒」を過ぎ、最も寒い時期を過ぎました。
2022年の干支は「壬寅(みずのえ・とら)」ですが、壬が寅を補完し、強化する関係で、春の胎動を助ける年、といいます。そして冬の寒さが厳しいほど、春の芽吹きは生命力にあふれ、華々しく生まれる、といいます。
これまで長く厳しい冬を経験してきた日本経済にとっては、ようやく暖かな春を迎える大きな転換の年になるとも考えられます。
これまで長い冬をもたらしてきた要因は、政治が国民よりも企業、産業界に目を向け、30年間賃金がまったく増えず、むしろ減少する中で消費が長期縮小、国民の生活水準が低下したことです。
この間、日本は先進国のトップグループから脱落し、日本の賃金水準はOECD加盟38か国のうち、23番目まで低下しました。これが賃金デフレをもたらしました。
その結果、GDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は、20年前に63%弱あったのが、2020年度には53%まで低下しました。
今年は「転換」の年か。2つの象徴
この典型的な政策がアベノミクスで、大企業を儲けさせれば、労働者、国民にもおこぼれが回ってくる、という「トリクル・ダウン」の考えに頼り、企業本位の政策に邁進しました。
しかし、世界中で「トリクル・ダウン」はなかったことが確認されています。
これで日本の国民生活は一段と悪化し、日本経済が「先進国」の地位を失う羽目となりました。そして、この事実にようやく目が向くようになり、政府や財界の意識が転換しようとしています。
これを象徴する事象が2つありました。
岸田政権の「新しい資本主義」で分配に目を向けたこと。そして新年賀会で多くの経営トップが今年のキーワードに「個人消費」を挙げたことです。
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