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日本も世界も「賃上げ」ラッシュへ。賃金デフレ終了で想定外のインフレ到来、投資マネーに大きな変化も=斎藤満

賃上げの胎動がインフレの芽に

この政財界の「変化」は、必ずしも「思い付き」によるものではないと見られます。

労働軽視の姿勢が、経済や国民生活の大きな制約になり、いよいよギリギリの限界まで来たことが、政府や財界を揺り動かしたと見られます。

厳しい冬を経験してようやく春の芽吹きが見られるようになったと捉えられます。

そこがアベノミクスと異なる点です。アベノミクスでも表面的には財界に賃上げを要請しました。しかし、安倍政権の8年弱でも賃金は増えず、人件費の減少が続きました。今回の政府の姿勢は、単に財界に賃上げを要請するだけでなく、財政資金、税制も絡めて賃上げに誘導するシステムをつくり、時限を区切って看護、介護、保育分野の賃金3%引き上げを決めました。

財界からも個人消費の回復が今年の経済の大きなカギとの認識があり、十倉経団連をはじめ、財界もようやく賃上げに重い腰を上げようしています。

国内市場の右肩下がりの原因となっている個人消費の停滞を放置できず、その原因となっている賃金抑制も見直そう、という機運となってきました。

この転換が実現すれば、長年続いていた賃金デフレが終焉を見ることになります。

この「失われた30年」を経験してきた若い人々は、インフレの実感がないといいますが、この30年間を規定してきた人件費抑制の流れが変わろうとしていて、賃金引き上げが広がると、この間なかった「インフレ」が戻ってくる可能性が生まれます。

前にもご紹介しましたが、これまでは企業の利益を脅かすコスト高要因、例えば石油ショックや円高などに直面すると、企業は最大コストの人件費を削り、全体のコスト増を回避してきました。個人消費が弱ければ、企業はコスト分を価格転嫁できず、また人件費を削る悪循環がありました。

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しかし、この人件費の調節というバッファーを使わないなかで、原油などの資源エネルギー価格や、穀物などが上がると、コスト全体が増えるので、価格転嫁を余儀なくされます。

個人の購買力があれば、価格転嫁も可能になります。その分、消費者物価も上昇しやすくなります。

これは過去30年間にみられなかったことだけに、市場参加者の意識転換にも時間がかかると見られます。

「賃上げ」が世界的潮流に

これは日本だけの現象ではありません。

米国でも企業は株主だけのものではないとの認識が広がり、労働者をつなぎとめるために、福利厚生に力を入れるようになりました。

中国でも習近平国家主席がこの秋の3選に向けて、格差の是正、低賃金労働者の救済につながる「共同富裕」を目指すようになりました。今年は賃金を10%程度引き上げたいとしています。

このように、これまで企業、資本家優位の政策が多くの国で行き詰まり、所得や資源が企業から個人向けにシフトしようとしています。

いわば世界的な潮流で、日本もその流れに沿った動きと言えます。

今まで世界に安い製品を通じて「デフレ」を輸出していた中国も、大幅な賃金引き上げでコスト高、製品価格上昇となり、「インフレ」を輸出するようになります。

欧米では今回のインフレは一時的との認識がありましたが、企業から労働者に目が向くようになり、賃金の引き上げが広がると、これがインフレの陰の主役になります。所得や資源が資本向けから個人向けに代わることで、経済や市場にもこれまでと異なる力が働きます。

Next: 想定外にインフレが進む?投資家も頭を切り替える必要

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