原油ほか輸入資源インフレによって、来年春以降、政府日銀の物価目標が達成される可能性が出てきました。本来、政府日銀が目指す2%の物価上昇は、景気拡大により賃金が上昇する中で達成されるべきもの。ところが、業種や企業によって対応は異なりますが、結局は賃金が抑制される中で物価が上がるパターンが生じそうです。この形のインフレは、国民の誰も望みません。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年12月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
オミクロン変異株が原油需要を冷やしたか
原油価格が不安定な動きをしています。WTIなど、原油先物価格が一時80ドルを大きく超え、米国をはじめ、主要国のインフレ圧力となりました。
米国のバイデン大統領は英国、日本、中国などと協調して石油備蓄の取り崩しを決め、インフレ圧力を冷やそうとしましたが、その効果にも限界がありました。
市場では備蓄放出の決定を見ながら、原油価格の反発が見られました。
ところがその後南アフリカを中心に、新しい変異株が見つかり、WHO(世界保健機関)がこれを抗体の効果を弱める可能性のある「懸念すべき変異株」に指定したことから、市場ではコロナパンデミックの新たな段階に入り、再びロックダウンなど、広範な感染予防のための規制がとられる可能性を懸念しました。
実際、欧米の一部ではアフリカ南部の国からの入国を規制しました。
これで世界の経済が圧迫され、原油需要が減るとみて、原油先物はブラック・フライデーの11月26日に急落。WTI先物は1日で10ドル以上下落して68ドル強を付けました。
この新型の変異株がどのように発生したのかは不明ですが、これで景気の先行きが不透明になり、米国市場でも政策金利の先物市場では、早期利上げ観測が後退しました。
政治の駆け引きで原油高止まり
もっとも、原油をめぐっては政治的な思惑がぶつかり、価格の先行きが不透明です。
12月2日に予定されているOPECプラスの会合では、これまで毎月進めてきた日量40万バレルずつの増産が見直される可能性があります。
先週のOPEC調査委員会で、米英などの協調減産によって、来年の1月・2月には世界の原油が最大370万バレル余剰になると試算しています。
それだけでもこれまでの増産計画が修正される可能性を示唆していますが、そこにコロナの変異株で世界経済が減速し、原油需要が減れば、さらに供給を調整するインセンティブになります。
原油需給は当面不安定が続きますが、米国連合が結果的に産油国にケンカを売ったことになるので、OPECが政治的に報復措置に出る可能性は否定できません。