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1ドル140円突破で債券市場を揺るがした“1998年の悪夢”は蘇るのか=久保田博幸

“運用部ショック”の発生

21日に大蔵省で開かれたアナリスト懇談会での大蔵省の発表コメントから、“運用部ショック”という言葉が使われ出したとされる。

21日に大蔵省で行われた国債発行に対する、ストラテジスト・エコノミストに対する説明会にて「資金運用部引受は、資金の流動性を高めたいため、今後、残存5年未満の物に集中」とのコメントが理財局からあった。

これにより資金運用部が、来年度から国債買い切りを中止するのでは?との思惑が広がり、債券相場は急落した。実際に大蔵省は買い切り中止を表明したわけではないが、情報ベンダーに「買い切り消滅」とのコメントが流れると、先物主体に大きく売られ、結局、先物は先週末比1円53銭安の132円52銭の安値の引けとなった。

そして12月1日の蔵相発言などが火に油を注ぐことになった。11時過ぎに、宮沢蔵相(当時)が、運用部の債券買い切りの中止を示唆するコメントを出したことに加え、日銀総裁も日銀による大量の国債保有に対して「自然な姿ではない」とのコメントが出たことなどから、債券相場は急落した。

正式に運用部の買い切りが1月から中止されるとの報道もあり、ついに債券先物は130円52銭と1988年8月以来のストップ安となった。現物市場では、さらに一段と売り込まれている。

三次補正予算が決定し、それによる大量の国債増発額が決まったこと。加えてこの時点で運用部の国債引き受けシェアが大幅にダウンしたことがあげられる。そして、これは一時的なものでないことが、1999年度の国債発行計画で明らかとなった。

資金運用部の余資は限られていたのである。1999年度の運用部の国債引き受けシェアもやはり大きく低下し、それでなくても過去最大規模の国債発行額なだけに、市中消化は60兆円を超えるものとなった。大蔵省としてもなんとか、これを消化させなくてはならず、需給悪化懸念による、ある程度の相場下落は想定していたようにも見受けられる。

投資家も0.9%で発行された国債など、ほとんど食指をみせず、ある程度の利回りが必要との見方も働いたとも思える。

買い切り資金がない大蔵省の財布事情

それに加えて大蔵省のお家の事情もあった。資金運用部の余資に限度があるということは、当然ながらこれまで続けていた買い切りの継続が難しくなる。市場はそれを薄々感じてはいたが、実際に、蔵相から中止のコメントが出て、正式に1999年1月からの資金運用部の債券買い切りが中止されることが発表された。

これは市場に大きなインパクトを与えた。加えて現在の50兆円にも及ぶ国債保有は異常との見方を日銀総裁が示したことで、微かな期待の「輪番オペ増額」も否定されるにいたり、先物はついにストップ安をつけたのである。

債券先物は高値からすでに10円近く下落したが、あまりのピッチの早さに、投資家は現物も外しきれず、当然ながら先物などでのヘッジも限られたものになっていた。

旧大蔵省資金運用部の国債引受額が減少し、国債の市中消化額が急増することが明らかにされ、大蔵省資金運用部による国債買い切りの中止も発表。

債券市場にとり、9月に大きく買われた反動もあるなか、需給悪化につながる複数の悪材料が重なったことで、債券相場は急落し(長期金利は急騰)、これはのちに「運用部ショック」と呼ばれたのである。

Next: 日本国債急落(運用部ショック)を危惧した米財務長官

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