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ユニクロはお手上げか。中国発「SHEIN」が日本のアパレル業界を丸呑み、常識破りの超高速生産でZARA超えへ=牧野武文

ZARAを越えろ!常識やぶりの生産体制

それが変わったのは、2015年頃からSHEINが積極投資をして、体制を整え始めてからです。SHEINはZARAをモデルに体制構築を学び、さらにZARAを超えるにはどうすればいいのかを考えるようになります。ここからSHEINの本格的な成長が始まります。

ここからSHEINはアパレル業界の常識を塗り替えていくことになります。今回はSHEINが米国で成功した理由についてご紹介します。

SHEINの生産拠点は、広東省広州市番禺区です。本社もこの場所にあります。この地区は、昔から服飾品の生産基地であり、零細から中小までの企業がひしめいています。2022年3月現在で、服飾関連の企業は3万4,689社あり、そのうち7,281社が服飾製造を主にしており、2万7,408社が卸や販売です。

この7,281社の製造工場のうち約1,000社がSHEINの生産を行っており、特に300社から400社がSHEINの生産を主体にしています。このため、地元では「希音村」(シーイン村)という言葉もあるほどです。

このような生産工場は大手ばかりではありません。お父さんとお母さんがやっている下町工場のようなところもたくさんあります。零細工場の中には、技術は持っているのに生産能力が小さいところもたくさんあり、こういうところをSEHINはうまく活用しています。

そのため、SHEINの最低発注ロット数は100点です。ZARAでも500点ですので、極端な少量発注ということになります。下町工場でも頑張って徹夜をすれば一昼夜でつくれそうな量です。

もちろん、これでは工場はコスト割れです。服飾も他の製品と同じように大量につくればつくるほど1点あたりのコストが下がって利益が生まれるようになります。ある工場が生産した商品が売れると、すぐに追加発注が行われます。工場はこの追加発注をこなすことで利益が出るようになります。原則、週に30着売れると追加発注がかかります。この追加発注のロット数も小さく50点から300点ほどです。

小ロット生産の4つのメリット

この小ロット生産のメリット4つあります。

1)在庫が積み上がらない。少量生産でこまめに追加発注をするため、在庫が増えません。売れない商品が出てきてしまったとしても、そもそも在庫している量が小さいので在庫コストがあがりません。売れない商品は追加発注をしないので、在庫数は小さく、廃棄をするのも楽です。トヨタで有名になったJust in Time方式に近い仕組みになっています。

既存のアパレルの問題は、大手工場と契約をして大量発注、一括購入をするため、大量の在庫を抱えることでした。この保管コストもばかになりませんが、廃棄をせざるを得なくなった場合の損も経営を圧迫します。一般のアパレルの商品が高いのは、その商品をつくるためのコストもかかっていますが、廃棄をする商品のコストも乗せられているからです。

特にブランドイメージを重要視するブランドでは、安易な割引セールもできません。やりすぎるとブランドイメージを毀損してしまうからです。ブランドイメージを保つには、不良在庫は廃棄をせざるを得なくなっていきます。

2)納期が短縮できる

製造数が小さいので、納期は早くなります。7日から11日で納品をします。ファストファッションと呼ばれるZARAでも納期は3週間から4週間です。これはさまざまなメリットをもたらすことができます。まず欠品による機会損失がほぼなくなります。ECで注文をして在庫がなくても1週間後に配送されるのであれば購入する人はいるでしょう。しかし、4週間後に配送だとしたらどうでしょうか。場合によっては季節が変わってしまいます。

もうひとつは流行に素早くキャッチアップができることです。ある流行が起きたらデザイン企画に1.5週間、製造に1週間、合計2.5週でその流行の商品を販売することができるようになります。ZARAでも5-6週間かかります。つまり、ZARAは店頭で新発売されていても、それは1ヶ月以上前の流行商品なのです。

既存アパレルでは、企画から発売まで6ヶ月から9ヶ月かかります。こうなると流行をキャッチアップするということは不可能で、そのためにアパレル業界は業界人が「今年の流行」をつくろうとします。大昔はこれでうまくいっていましたが、SNSがある現在では、流行は業界人ではなく、消費者がつくるものになっています。

3)多品種生産ができる

1,000社に対して少量生産の発注をかけるため、ある程度の規模の工場では、複数の受注を同時にこなすことができます。このため、大量の種類の商品が製造できます。SHEINでは平均して毎日1,000点の新商品が発売されます。ZARAは年に2.5万点の新商品を発売したことで世の中を驚かせましたが、SHEINは単純計算で年に36.5万点ということになります。もちろんすべてがまったく違う商品ではなく、カラーバリエーションだとか、襟の形を変えただけだとか、ボタンが違うとかの商品もありますが、それでも驚異的な点数です。

4)ヒット商品をたくさん生み出すことができる

小ロット、多品種生産であるということがヒット商品をたくさん生み出すことにつながります。今、3,000点の商品を製造できるリソースがあったとします。SHEINの場合は100点ごとの注文なので、30種類の商品がつくれます。ZARAは最小ロットが500点なので6種類の商品がつくれます。

今、ヒット確率が1/3だとすると、SHEINは10点のヒット商品を生み出すことができる一方で、ZARAは2点のヒット商品しか生み出すことができません。SHEINは、ヒットの兆しが見えれば、どんどん追加発注をしています。数打てばあたる方式ですが、結果として他のブランドよりもはるかに多くのヒット商品を生み出すことができるのです。

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