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ユニクロはお手上げか。中国発「SHEIN」が日本のアパレル業界を丸呑み、常識破りの超高速生産でZARA超えへ=牧野武文

アパレルにとって米国は世界のサンプル市場

もちろん、やみくもに多品種生産するわけではなく、テスト販売によるA/Bテストを行います。これを米国市場で行うことに大きな意味があります。

なぜなら米国にはさまざまな人種の人が住んでいるだけでなく、人種ごとに異なるカルチャーに属しているからです。例えば、中国系米国人もいれば在米中国人もいますが、多くは英語と中国語を話し、中国人のコミュニティにも属し、米国人のコミュニティにも属しているのが普通です。これは欧州系、アジア系、アフリカ系など、人によって異なるとはいうものの同時に2つの文化に触れて生きています。そのため、ファッションの嗜好も属しているコミュニティに影響をされます。

米国にはほぼ世界中の人種が集まっているため、米国市場はアパレルにとって、世界市場のサンプル標本にもなっているのです。つまり、テスト販売をして、売れるか売れないかを見るだけでなく、ある商品は○○系の人に好評だが、××系の人にはあまり受けがよくないなどというデータが取れます。

先ほどのボタンが違うだけの商品などは、同時に販売をして、A/Bテストを行いますが、単に「どちらを商品として選択するか」だけでなく、どの人種に売れるかの傾向も見えてきます。

SHEINはすでに世界150カ国で販売をしています。米国以外に販売をする場合は、この米国での販売傾向データが役に立つのです。

SHEINが米国市場を軸にしているのは、ウェディングドレス時代からの流れもあり、米国が現在のところ世界最大の市場であることもありますが、米国市場でのデータにより他国に展開しやすいということもあります。

この点で、既存アパレルは甘さが残っていることに気づかされます。なぜなら、多くのブランドがテスト販売は本社のある地域で行うからです。場所にもよりますが、それは世界市場から見たら、非常に偏ったサンプル標本になってしまいます。そのため、海外ブランドで、日本人にはなにか合わない、サイズの表示が日本人向きになっていない、日本の高温多湿環境で革部分などがすぐに劣化するなどの問題を起こすことが少なくありません。

SHEINはテスト販売の目的をきちんと定義し、最も成果が得られる方法を採用しています。

SHIENのデザイナーは人工知能

SHEINというと「デザインをAIが行なっている」ということが過大評価されているようなところがあります。残念ながら、今流行りのStable Diffusionのように「水玉、ワンピース、高原の少女」とテキストを入力したら、素晴らしいデザイン画を出力してくれるようなAIは存在しません。

SHEIINは、AIをデザインの質を上げるためではなく、生産効率を高めるために使っています。中国のアパレルデザインの世界には「4321の法則」という言葉があります。インハウスデザイナーの仕事の4割は既存デザインの手直し、3割はライバルに対応するためのデザイン、2割がブランドオリジナルのデザイン、1割はデザイナーの個性を出したデザインという意味です。つまり、仕事の7割は既存商品の焼き直しなのです。ドラマに出てくるようなファッションデザイナーというのは、頂点にいる一握りの人でしかありません。

このような仕事をこなすには、流行やトレンドを把握することと、その流行やトレンドを具体的な服飾の要素に落とし込むことが必要になります。この作業をするために、一昔前のデザイナーというのはショッピングモールや感度の高い店舗を巡って、メモを取ったり、スケッチをしたりするのが仕事の半分以上の時間を占めていました。

しかし、今時、そんな手作業をしていたら業界のスピードについて行くことはできません。SNSのキーワードトレンドやファッション系ECを見るというオンラインでやるようになっています。これも手作業でやっているわけにはいかないので、自動で巡回をして分析をしてくれるAIが必要になります。

SHEINではこのようなデザインをアシストしてくれるAIを活用してデザインの生産効率を高めています。と言っても、これはSHEINだけのことではありません。中国のアパレル製造業で、AIのアシストを使っていないところはほぼないのではないでしょうか。すでに、私たちにとってのExcelやメールと同じように、使うのが当たり前のことになっています。

SHEINだけでなく、多くのアパレルで似たような手法をとっていますが、SHEINでではまずGoogle Trends Finderを利用して、ファッションに関係のある検索語を抽出し、機械学習により、どれがトレンドになるかを分析しています。

そして、ECなどの画像データを自動収集し、AIにより画像解析を行い、ファッション要素を判別し、タグ付けをしていきます。ECだけでなく、紙のファッション誌や新作コレクション発表会などの写真も取り込んでいるそうです。

これで、「水玉」が流行するという予測ができたら、画像データを「水玉」で検索すると、水玉の服の画像が大量に出てくることになります。さらに、他の要素で絞り込みを行い、デザイナーはこれを見て、デザインを起こしていきます。

デザイナーの仕事は、テーマにそって、大量のファッション写真を見て、その要素を取り込み、ひとつのデザインにまとめることです。ですので、順列組み合わせの要領で、大量のデザインを生み出すことができます。

マーケティングにインフルエンサーを投入

マーケティングでも、SHEINは徹底をしています。一般のアパレルでは、著名人を起用してマスメディアや屋外広告を使って宣伝をしますが、SHEINはそういうことをしません──

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  • vol.140:始まった中国義務教育の情報教育。どのような授業が行われることになるのか(付録)(9/5)
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  • vol.139:網紅式旅行で成功した重慶市。インバウンド旅行客再獲得のためにやっておくべきことを重慶に学ぶ(8/29)
  • vol.138:Copy to China or Copy from China。新たなビジネスを発想するバイカルチャラル人材とは何か?(8/22)
  • vol.137:私域流量の獲得に成功しているワイン、果物、眼鏡の小売3社の事例。成功の鍵はそれ以前の基盤づくりにあり(8/15)
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  • vol.134:中国で始まっているメイカーの時代。中国ITの強さの秘密はアジャイル感覚(7/25)
  • vol.133:データ駆動経営の成長と限界。人とAIは協調できるのか。AIコンビニ「便利蜂」の挑戦(7/18)
  • vol.132:流量から留量へ。UGCからPGCへ。変わり始めたECのビジネスモデル。タオバオの変化(7/11)
  • vol.131:ショッピングモールは消滅する。体験消費が物質消費に取って代わる。モールが生き残る4つの方法(7/4)

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  • vol.129:SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か(6/20)
  • vol.128:社会運動とビジネスと事業の継続。スタートアップに必要なものとは。シェアリング自転車競争史(6/13)
  • vol.127:WeChatマーケティング。私域流量の獲得と拡散が効率的に行えるWeChatの仕組み(6/6)

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  • vol.125:5分でバッテリー交換。急速充電の次の方式として注目をされ始めたバッテリー交換方式EV(付録)(5/23)
  • vol.125:5分でバッテリー交換。急速充電の次の方式として注目をされ始めたバッテリー交換方式EV(5/23)
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  • vol.119:主要テック企業はリストラの冬。安定成長へのシフトと香港上場問題(4/11)
  • vol.118:北京冬季五輪で使われたテクノロジー。デジタル人民元から駐車違反まで(4/4)

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  • vol.115:ネット広告大手の広告収入が軒並み失速。ネット広告不要論まで。広がるDIY広告(号外)(3/14)
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  • vol.112:アリババ新小売へのスーパーの逆襲が始まった。YHDOSと大潤発2.0(2/21)
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  • vol.107:(付録)トラブル事例から見た中国ECの消費者保護。クーリングオフと覇王条款(1/17)
  • vol.107:トラブル事例から見た中国ECの消費者保護。クーリングオフと覇王条款(1/17)
  • vol.106:電動自転車がいちばん便利な乗り物。コンパクト化が進む中国の都市(1/10)
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  • vol.103:商品はショートムービーで紹介するのが主流。タオバオを起点にショートムービーで展開する興味ECの仕組み(12/20)
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  • vol.097:始まった中国の本格EVシフト。キーワードは「小型」「地方」「女性」(11/8)
  • vol.096:国潮と新国貨と国風元素。中国の若い世代はなぜ国産品を好むようになったのか?(11/1)

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image by:Venn-Photo / Shutterstock.com
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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』(2022年12月5日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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