「M&A→コスト削減」という手法の限界
ニデックは、「情熱」「熱意」「知的ハードワーク」、そして、「すぐやる」「必ずやる」という理念を掲げています。
ブラック企業のような理念ですが、永守さん自身がハードワークをこなしてきたからこそここまで成長してきたと言えます。
初期のニデックはプレハブ小屋から始まり、永守さんは大手企業からの厳しい要求を受け、寝る間を惜しんで取り組んできました。
これが成功に結びついたことは疑いありませんが、同時にその手法には限界が見えてきたと言えるでしょう。
ニデックはM&Aによる成長戦略も取ってきました。
M&Aは成功する確率が低く、高値で買収し、その後の統合が上手くいかないことが多いですが、永守さんは安く買収して、コスト削減により利益を上げる手法で成長を遂げました。
この永守さんのM&A戦術は一時は高く評価され、見た目上の成長が速いため、株価も上昇しました。
ニデックは、モーターに関する技術は確かに持っていると思われますが、一方で高い技術を持っているかというと疑問があります。
製造業の利益率の平均が5%ぐらいで、上場企業としては10%から15%が優れた数字とされています。
しかし、最近のニデックの営業利益率はこれに届いておらず、右肩下がりの傾向が続いています。
永守さんがコスト削減にとにかく厳しく、給料に見合わないハードワークを求められるため、優秀な人材や技術者が集まらず、その結果、付加価値の高い製品を生み出すことができず、利益率が上がりにくくなっているのではないかと推測できます。
今、半導体業界が注目されていますが、儲からないながらも将来のシェアを取るために研究開発を続けてきた会社が花開いています。
ニデックの戦略はこれとは程遠いように思えます。
コスト削減に注力することは中小企業であれば効果的かもしれませんが、大企業でやるのは無理があります。
ニデックほどの大企業なら、新たな市場を開発することが重要ですが、永守さんにその発想は無く、既にある市場に突っ込んでいってコスト削減で利益を絞り出す戦略に将来性は感じられません。
業績を見ると、M&Aとコスト削減によって一時は調子よく上がるのですが、そのしわ寄せが来た時に「構造改革費用」としてマイナスを計上し、減価償却費をリセットしたことによってまた上がる、という動きを繰り返しています。
長期で見ると、上下動を繰り返しているだけで、伸びているとは言えません。
投資するなら永守会長と心中するつもりで
ニデックの今後はどうなるでしょうか。
結局永守さんが主導権を握って、需要が多く収益性の高い大きなモーターの企業を買収していくということですが、それほど良い企業が永守さんの求めるくらい安く売られているかというと疑問があります。
中国の電気自動車市場での失敗を繰り返すのではないかという懸念もあります。
これまで永守さんのハードワークで大きくしてきて、また本気で指揮を執るとなれば期待できなくはないですが、大企業においてそのやり方が続くのか疑問視せざるを得ません。
結局のところ、ニデックは永守さんの会社でしかなく、強みも弱みも永守さんに集約されていると言えます。
永守さんのカリスマ性に乗り、永守さんと一蓮托生でいくという方なら株を持っていてよいと思いますが、逆にそうでないなら保有するのは厳しいでしょう。
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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
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』(2024年2月4日号)より
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。