先月「テスラの苦戦が示唆するEVの課題」と書きましたが、その後もEV(電気自動車)の限界を示唆する事象が続きました。このままではEVがガソリン車にとって代わることは難しいかもしれません。EV化の動きに乗り遅れた日本の自動車業界には光が差しそうです。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年3月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
テスラのEVよりトヨタのHV
EVの限界を示唆する動きがまた1つ登場しました。
最近の米国市場では、トヨタのHV車の販売が、テスラのEV販売台数を上回りました。テスラよりもプリウスに人気が集まっています。
欧米が日本車・ドイツ車を叩くために始めたEV戦略が、足元から崩れつつあります。少なくとも顧客はテスラのEVよりも、日本のHV(ハイブリッド車)を選好していることになります。
ここまでの実体験を通じて、EVの様々な問題が露呈してきたためとみられます。具体的な問題を少し提示してみましょう。
天候に弱い
まず露呈したのが、天候に弱いこと。
特に、極寒の地で充電がスムーズにできない事例が報告されていて、命にかかわるリスクが意識されました。
極寒でガソリンが凍り付くことはありませんが、電気がまさかの充電トラブルを生じました。極寒の中で電気のないところに取り残されれば、命にかかわります。
もともと広大な大地を持ち、砂漠や猛暑・極寒の地など自然環境の厳しいところを走行する可能性が高い米国では、車の安全性と信頼性が強く求められます。
これに応えてきたのが日本車の高い信頼度です。
今回、EVの充電に際して、極寒の地ではスムーズに充電できないことがわかり、大きな不安を投げかけたことにります。
走行距離の限界と充電問題
電動カートでゴルフ場やリゾート地を走るならともかく、広大な土地を持つ米国や中国、ロシアなどでは、長距離走行の需要が高く、走行距離の短いEVでは不向きです。
車に乗るたびに充電のことを考えなければならない煩わしさが大きな制約になる、との声が多く聞かれます。
テスラのモデル3で走行実験を行った結果、430km走ったところでバッテリー残量が10%となったと言います。それ以下になると警告機能などの不全が起きる可能性があり、バッテリーがゼロまでは走れません。
米国では、ニューヨークからボストンとワシントンに30分ごとに飛行機のシャトル便が飛んでいますが、空港までのアクセスや空港での手荷物検査、セキュリティチェックのわずらわしさから、車で移動する人も少なくありません。
その距離は400kmから500kmで、テスラ車でぎりぎり行けるかどうかの距離です。それ以上になると、EVでは充電が必要になります。