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株価ピークから7割下落「ラクスル」に復活の兆候?長期投資のプロから見た今後の成長性とリスク=佐々木悠

今後の成長性

現在のラクスルは自身を「第二次創業期」と表現しています。具体的には自社で内製化したビジネスだけではなく、連続的なM&Aによる拡張を通じて事業のさらなる成長へとつなげていく方針です。
「ベンチャー企業がM&Aに走ってしまったか…」と思われるかもしれませんが、ラクスルはM&Aが非常に上手な会社です。というよりも、買収した企業を成長させることが非常に上手な会社であると考えます。

2023年8月に創業者の松本氏が社長職から退き会長職へとなりました。
代わりに社長取締役CEOとなったのは、それまでCFOを務めていた永見世央氏です。永見氏は慶應義塾大学卒業後、みずほ証券にてM&A業務を行っていました。その後外資系の投資会社であるカーライルグループにて、バイアウト投資と投資先の経営及び事業運営に関与しています。
つまり、ラクスルの永見社長は、事務的にM&Aを経験していたことに加え、実際に投資先の企業の中に入り込み会社を成長させるなど、投資&成長というM&Aの本質的な目的に深く関わったキャリアをお持ちです。

ラクスルは2020年に株式会社ペライチと株式会社ダンボールワンを子会社化しました。ペライチは専門知識がなくともスピーディーかつ簡単にホームページが作成できるサービスを提供し、ダンボールワンは段ボール版のラクスルといえます。
こういった企業と既存のラクスルのシナジーは、例えば名刺を作成する場合にそれを運ぶために、段ボールを使うことが想定されます。あるいは企業運営において、ホームページの作成はほぼ必須ですから、そこも手助けができることになります。

これらの企業は買収後、売り上げが2倍から4倍になっています。
特にダンボールワンの顧客のうち約10%はラクスル経由の顧客です。マーケティングコストをかけずに顧客増につながり、クロスセル(顧客が購入しようとしている商品と別の商品を提案し、購入を検討してもらうこと)が実現されている状態です。

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出典:決算説明資料

さらに、2023年8月にはAmidA HDを完全子会社化しました。AmidA HDは2018年12月に上場したベンチャー企業です。この会社は、ハンコヤドットコムを通じて印鑑やスタンプのオンライン販売を行っています。
ラクスルからすれば「新たに名刺を作る会社であればハンコを使うし、その先には販促物でチラシなどをするであろう」という読みがあり、既存事業と極めて親和性が高い企業買収となりました。

現在のラクスルは、既存事業と親和性が高いベンチャー企業を買収し、自社のノウハウを注入してクロスセルで成長するという勝ちパターンができつつあります。これが第二次創業と表現する所以であり、今の好調を支える要因、かつ今後の成長戦略の1つです。

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出典:決算説明資料

市場と競合の動向はどうか?

ここまでラクスルの優れたところを紹介してきましたが、市場の動向や競合他社の存在はどうでしょうか?
まず、市場の動向ですが国内の印刷市場は縮小傾向にあります。しかし、その主な要因は出版印刷関係の市場の縮小であり、ラクスルの対象市場である商業印刷、事務用印刷市場はほぼ横ばいで推移しています。
その中で国内印刷通販市場だけを切り出すと、EC化率はわずか5%です。この比率が上がれば、市場全体が横ばいだったとしてもまだ成長余地はあると考えられます。

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出典:決算説明資料

しかし、成長が見込まれるがゆえに、株式会社プリントバックが提供するプリントバック激安名刺.comというサービスもあります。単純な価格だけを比べれば、これらサービスはラクスルの印刷価格を下回っています。ラクスルと競合他社との違いを考えると、印刷を拡大してきたノウハウをもとに、印刷会社などサプライヤーのサプライチェーンまで関与していることが大きな違いだといえます。ラクスルは、自社のサービスを使う印刷会社に実際に足を運び、印刷工場の機材の配置場所をアドバイスするなど、顧客がさらに成長できるような取り組みを行い、win-winの関係を作っています。

従って、ただのECを運営する会社ではなく、自社のサービスを使う業界の中身まで深く関わり、サプライヤーの生産性向上を促すことで事業領域が拡大している点が競合他社との大きな違いだと考えます。

Next: 今後も成長の余地あり?ラクスルは買いか売りか

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