買収成立の可能性は極めて低い
結論から言うと、今回のクシュタールの提案でセブン&アイHDが買収を受け入れる可能性は極めて低いと考える(受け入れなかった場合に敵対的な買収をする可能性もほぼ無いだろう)。
クシュタールの詳細な提案内容が不明なので明確なことは言えないのだが、セブン&アイHDの時価総額が5.6兆円なので、完全買収するには20%程度のプレミアムを乗せたとしても7兆円近くの買収となる。
クシュタールにこれだけの買収を成し遂げる財務余力があるかと言えば、同社の直近のFinancial Reportingを見る限りはかなり難しいとは考える。
また過去のカルフールの買収のように、日本を代表する小売業であるセブン&アイHDが買収されるとなると政府や取引先の反発も大きい。
おそらくクシュタールも提案が実現する可能性はそれほど高くないと分かっていて提案しているのだとは思う(過去にも2度同社からセブン&アイHDに買収提案があったようで、いずれも実現には至っていない)。
クシュタールは買収を重ねることによって成長してきた経緯があり、株主向けのアピールとしてセブン&アイHDを買収したいという姿勢を示したのではないか。
セブン&アイHDの問題点
クシュタールとセブン&アイHDの業績を比べると以下のとおりとなっている。
<クシュタール(2024年4月期)>
売上高:USD69.2 billion(約10兆円)
純利益:USD2.7 billion(約4,000億円)
<セブン&アイHD(2024年2月期)>
売上:11兆4,717億円
経常利益:5,071億円
親会社株主に帰属する当期純利益:2,246億円
売上ではセブン&アイHDが上回っているが、円安の影響もあり円ベースでの純利益はクシュタールが約4,000億円に対してセブン&アイが2,246億円と差が付いている。
また両社のROEを見ると、クシュタールが20%台なのに対して、セブン&アイHDは6%台とかなり大きな差がある(要するにクシュタールの方が財務レバレッジを上手く使って株主リターンを高めている)。
セブン&アイHDはコンビニだけではなく祖業であるイトーヨーカ堂のGMS事業やその他の事業も行っている。
セブン&アイHDの2024年2月期の各事業別のセグメント別売上を見ると、スーパーストア(GMS)事業、その他事業が低利益率、低成長率で足を引っ張っていることがわかる。
※参考:セブン&アイHD 2024年2月期決算説明資料
https://www.7andi.com/ir/file/library/ks/pdf/2024_0410ks_01.pdf
イトーヨーカ堂の店舗を統合するなどでスーパーストア事業のリストラを行っているが、同事業の利益率はなかなか改善には至っていない。
セブン&アイHDが2023年9月にそごう・西武を投資ファンドに売却したことは記憶に新しい。
このままだとセブン&アイHDはスーパーストア事業の売却を検討せざるを得ないのではないかと考える。
それぐらい国内外のコンビニ事業とスーパーストア事業では利益率、成長力に差があり過ぎる。
クシュタールの買収提案は実現が難しいかもしれないが、低利益率・低成長率・低時価総額に甘んじていると、セブン&アイHDさえも買収の対象になりかねないというマーケットに対するインパクトは大きかったのではないかと思う。 ※2024年8月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。
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