強みもリスクも「オプジーボ」
小野薬品工業の最大の強みは、革新的な創薬力にあります。特に、がん免疫療法分野での世界的リーダーシップは、同社の競争力の源泉となっています。
その代表例が、画期的な医薬品オプジーボ(ニボルマブ)です。この創薬力を支えているのが、売上高の約20%という高水準の研究開発投資です。また、京都大学との共同研究からオプジーボが誕生したように、アカデミアとの効果的な連携も同社の強みの一つです。さらに、オプジーボの成功により築き上げた堅固な財務基盤も、同社の持続的な成長を支える重要な要素となっています。
一方で、小野薬品工業が直面する最大のリスクは、オプジーボへの高い依存度です。オプジーボの特許は、米国では2028年、欧州では2030年、日本では2031年に満了する予定です。新薬開発には高いリスクと長期の開発期間が伴うため、次世代の主力製品の創出は容易ではありません。
特許切れは製薬会社の業績に大きな影響を与えます。
- 売上高の急減:ジェネリック医薬品の参入により、市場シェアが低下し、売上高が大幅に減少する可能性が高い。
- 利益率の低下:価格競争の激化により、製品の利益率が低下する。
- 研究開発投資への影響:主力製品の収益減少により、新薬開発への投資が制限される可能性がある。
小野薬品工業の株価指標を見ると、PERは10.6倍、PBRは1.19倍と、いずれも市場平均を下回る低い水準にあります。これは、現在の好業績にもかかわらず、市場が将来の成長に懐疑的であることを示しています。
主力製品オプジーボの特許切れが迫る中、次の成長ドライバーが不透明であることが、投資家の慎重な姿勢につながっています。高いROE(16.7%)にも関わらず株価が上がらないのは、この将来への不確実性が大きく影響していると考えられます。
特許切れ=即「業績悪化」なのか?
もちろん、小野薬品工業は、オプジーボの特許切れに向けて複数の対策を講じています。まず、研究開発投資を積極的に行い、新規パイプラインの充実を図っています。特に、がん領域以外の免疫疾患や神経疾患分野にも注力し、製品ポートフォリオの多様化を進めています。
また、オプジーボ自体の価値最大化戦略として、新たな適応症の開発や併用療法の研究を積極的に推進しています。これにより、特許切れ後も競争力を維持することを目指しています。
さらに、グローバル展開の強化、特に米国市場での自社販売網の構築を進めており、収益構造の改善を図っています。
特許切れが即座に危機につながるわけではないという見方もあります。オプジーボはバイオ医薬品であり、製造の複雑さからジェネリック(バイオシミラー)の参入障壁が比較的高いとされています。また、がん治療における重要性と医師の信頼度を考慮すると、急激な売上減少は避けられる可能性があります。
加えて、日本市場での特許満了が2031年と比較的遅いことも、同社にとっては準備期間の確保につながっています。この期間を有効活用し、次世代の主力製品を育成することで、特許切れの影響を緩和できる可能性があります。
投資判断とアドバイス
小野薬品工業への投資を考える上で、オプジーボの特許切れは確かに重要なリスク要因です。しかし、このリスクが即座に業績悪化につながるとは限りません。バイオ医薬品の特性上、ジェネリック(バイオシミラー)の参入障壁は比較的高く、また医師や患者の信頼も厚いため、急激な売上減少は避けられる可能性があります。
さらに、同社は特許切れに向けた対策を着々と進めています。新規パイプラインの充実や米国での自社販売網構築など、次の成長に向けた投資を積極的に行っています。現在の強固な財務基盤があればこそ、このような将来を見据えた投資が可能となっています。
小野薬品工業の300年以上に及ぶ歴史も、投資判断において重要な要素です。長年培ってきた創薬力と産学連携の実績を考えれば、オプジーボに続く革新的な医薬品を再び生み出す可能性は十分にあります。
現在の株価水準では配当利回りが4%弱と魅力的で、堅固な財務状況も相まって、気長に待てる状況と言えるでしょう。
ただし、製薬業界特有の不確実性は無視できません。新薬開発の成功確率は決して高くないため、小野薬品工業一社に投資を集中させるのではなく、ポートフォリオの一部として組み入れることをお勧めします。他の業種や、異なる特性を持つ製薬会社との分散投資が、リスク管理の観点から重要となります。
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2024年9月5日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。