国民生活の根幹をなすコメがスーパーから消え、一部で騒ぎになりました。ようやく今年の新米が届くようになって、危機は回避された感がありますが、新米の価格は前年比30%から50%高と言います。目先のコメ不足は解消しても、この1年でみれば、生産量が減っていて、どこかでまたコメ不足が露呈、改めて「米騒動」が起きる懸念があります。
9人の自民党総裁候補からは残念ながら食料安全保障、コメの安定供給についての発言がありません。この問題は国民生活の根幹を脅かし、物価高を招くだけに放置できず、政府の減反政策、食料安全保障に対する意識改革が是非とも必要で、この機会に問題提起したいと思います。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年8月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
食料安保に反するコメの減反政策
もう30年くらい前になりますが、平成の米騒動が日本で起きました。店頭からコメがなくなり、急遽タイなどからコメを輸入する事態となりました。
日本のコメ生産量は潜在的に年間1,400万トンくらいあったのですが、政府の減反指導で当時は1,000万トン程度に生産規模が縮小していました。そこへ大変な不作となり、年間800万トンも割り込む事態となってコメ不足が露呈しました。
その後も日本は減反を続け、近年でも年に約10万トンの生産量を減らしています。2023年のコメの生産は作況指数が101あったにもかかわらず、前年から9万トン減の661万トンになっていました。政府の指導のもと、農家への減反補助金の「ニンジン」をぶら下げて年々減反を進めています。
その結果が今日のコメ不足をもたらしています。
それだけコメの需給のバッファーがなくなっています。国内需要を十分カバーできるだけの生産を行い、その一部を政府が緊急事態に備えて買い上げ、備蓄しておくことが最低限必要です。今でも政府の備蓄米はあるのですが、価格支持のため、つまりコメ価格を高く維持し、農家の所得を守るために備蓄米の解放をしません。
これでは日本人の食生活の基礎となるコメの安全保障を守れません。本来望ましい姿は、潜在的な生産量1,400万トンを維持し、一部を政府が備蓄用に買い上げ、余りを海外に輸出する姿です。つまり、需給の調整弁を輸出で行い、国内需給の安定、価格の安定を図るのが経済安保の考えです。
現在の政府、農水省の「減反」政策は、農家の所得、農協のビジネスを優先し、国民の食生活を守る意識が欠如しています。
需要は増加気味で需給ひっ迫
コメの供給量は政府の減反政策によって年々減少しています。
今年の生産量も昨年を下回る可能性が高いとみられます。新米が出て供給が一時的に増えても、年に1回の生産ですから、いま供給を増やせば、来年のどこかでまたコメ不足が露呈するリスクがあります。
それというのも、需要面では下げ止まりから増加の要因が出てきているためです。
まずインバウンド需要の高まりで、年間3,000万人を超える外国人旅行者が日本食を楽しんでいます。それだけコメの需要が増えます。
さらに国内では健康志向、ダイエットの面からグルテン・フリーの動きが強まり、小麦粉からコメへの需要シフトが生じています。特に小麦粉の値上げでパンやうどんの値上げが進んでいることもあり、パンも米粉で作るものが採算に合うようになりました。
おにぎりブームもコメ需要を高めています。日本人のコメ離れが言われて久しいのですが、ここへきてコメ需要に下げ止まりから増加の気配がみられます。