金利の引き上げ
インフレの混乱を抑えるためにも、インフレの要因であるゼロ金利をどこかで解除しなければならなかったわけです。
それが2022年の前半の頃です。
しかし、FRBが想定した以上にインフレが進んでいたため、金利も一気に引き上がり、0%から5%にまでなりました。
金利が下がると株式市場にとってプラスとなりますが、金利が上がるとやはりその逆で株式市場にとってマイナスとなります。
それによって、2022年から2023年にかけて、特にそれまで上がってきたハイテク株を中心に株価を下げる局面が続きました。
その後、株価は上がってきましたが、その背景にあるのがソフトランディングへの期待です。
金利が上がると基本的には景気が悪くなります。
2023年には景気後退が訪れるというのが大方のエコノミストの見方だったのですが、実際には2023年に景気はそれほど悪くなりませんでした。
その理由の一つは、想像以上に賃金の伸びが強かったことです。
インフレと同時に賃金も上がってきていて、上昇率はなだらかになったものの、5%程度は賃金が上がり続けている状況が続いています。
物価は上がっても賃金も上がっているので、アメリカの景気を支える個人消費が落ちず、景気はそこまで悪くなりませんでした。
なぜ賃金が上がったかというと、コロナショックの時に解雇された労働者たちは、政府からの補助金や給付金で生活できたため、経済活動が再開された後もなかなか労働市場に戻ってこず、雇用主は労働力を確保するために賃金を上げる必要があったからです。
こうして、働かなくても給付金で余裕がある人たちと、働いて多くの給料を得た人たちがお金を使って経済を回すという、ある意味での好循環が生まれていたのです。
ここから、足元の状況の話になります。
多くの金融関係者が今注目しているのが、アメリカの「雇用統計」です。
多くの経済指標がありますが、状況によって見るべき指標は変わってきます。
直近で賃金の上昇率が下がってきていますが、これはさすがに政府からの補助金・給付金が無くなりつつあって、労働者が戻り、賃金を上げる必要がなくなったからです。
働き手としては、給料が上がらなくなり、インフレだっただけで実際には豊かになってないとなると、財布の紐を締める時が訪れます。
賃金の伸びが鈍くなってきていよいよ景気後退の到来という見方が広がっています。
しかし、ソフトランディングへの期待も消えてはいません。
FRBが上手くやっているのではないかと見られているからです。
金利を大きく引き上げましたが、ここ1年は上がっていなくて、先日のジャクソンホール会議でFRBのパウエル議長が、9月には金利を引き下げるという発言をしました。
金利が下がることで、今弱りかけている経済を再び活性化できるのではないかと投資家は期待しているわけです。
ソフトランディングの期待がありながらも、景気は巡るものなので、一方ではそう上手くいかないのではないかという懸念もあります。
これまで金利を大きく引き上げてきた事には当然副作用もあります。
例えば、金利が上がると借金を抱える企業は苦しくなりますし、倒産することもあるでしょう。
また、住宅ローンを借りる人もいなくなり、産業が停滞していっている可能性もあります。
極めつけは不動産です。
金利が上がると不動産をなかなか買いたがらなくなります。
しかも世の中ではリモートワークの流れが進み、ニューヨークのオフィス街は実は中身はガラガラだという話もあります。
不動産価格が下落して、不動産を持っている人が苦しくなり、借金を返せないということになると、今度苦しくなるのがお金を貸している銀行です。
アメリカの地方銀行ににはそういったところにお金を貸している銀行が多くあると言います。
1年ほど前にアメリカの地方銀行が苦しきなった時期がありましたが、それは金利の上昇による国際価格の下落と不動産価格の下落が要因となっていました。
金融機関の状況が悪くなると、経済全体の信用を無くしてしまい、リーマンショックのような経済危機が起こり得ます。