トランプは2日(日本時間3日午前5時過ぎ)、米国の関税政策を貿易相手国に対して発表した。これはトランプの「オウンゴール」である。以下、個人的見解を書きたい。(※本文執筆時点2025年4月3日:脇田栄一)
プロフィール:脇田栄一(わきた えいいち)
FRBウォッチャー、レポートストラテジスト。1973年生、福岡県出身。個人投資家を経て東京都内の大手株式ファンドでトレードを指南。本来は企業業績を中心とした分析を行っていたが、08年のリーマンショックを経験し、マクロ経済、先進国中央銀行の金融政策の影響力を痛感。その後、FRBやECBの金融政策を先読み・分析し、マーケット情報をレポートで提供するといった業態を確立。2011年にeリサーチ&コンサルティング(現eリサーチ&インベストメント)を起業。顧客は機関、個人投資家、輸出入企業と幅広い。ブログ:ニューノーマルの理(ことわり)
トランプ関税で困るのはFRB
日本のような同盟国に対しても、軍事的抑止力を笠に掛け、高率関税を課す。このようなトランプの乱暴…というか独りよがりのやり方は、マーケットにボラ高を招き、金融市場の不安定化をもたらすことになる。
トランプはマーケットのことを頭に入れていないので、想定内といえば想定内。しかしFRBは今後の政策運営について苦慮することになり、結果的に(FRBの)信認をも低下することになる。
トランプ政権のとんだとばっちり、といったところ。
トランプ演説が始まったのち、時間外先物は予想通り大幅反落で荒い値動き。目先の景況感をふくめたマクロ指標は、調査期間と公表日までタイムラグがあるので、材料視するのは危険だといえる。

NYダウ 日足(SBI証券提供)
問題になっているのは米国の「輸入関税」
「関税、関税」とメディアは雑に報道するが、実際には輸出関税と輸入関税は分けられていて(前から気になっていた)、言われているのは「輸入関税」である。
そのうえで、そのコストは米国の輸入業者・小売業者が負担することになり、販売価格自体が値上がりする。しかし、これも100%の業者が価格転嫁可能かといえば、業種によって違っている。
日本含むどこの国もそうだが、販売業者としては客に逃げられると困るので、そのまま販売価格に転嫁することはできない。米国ですら時間を置きながら、輸入コストを転嫁するのは35%〜50%といわれている。
アメリカの輸出製品は中国からの安価な部品に頼っている側面大きく、トランプの極端な関税政策によって輸入事態が減少すれば、アメリカからの輸出がそのまま減ってしまう。
トランプ関税で自滅していく米国経済
アメリカ国民の消費者心理としてもそうである。2021年からの高インフレで長期間ウンザリしているところに自国の大統領(トランプ)が一層の値上げをしたに等しい、と捉える可能性は高い。
販売業者は関税分を販売価格に転嫁せざるを得ないが、それによって消費者の需要は傾くだろう。
トランプは、「長期的な成功には短期的な痛みを伴う」という、一見もっともらしいことを言っているが、このような流れを見ていれば、彼のシナリオ通りにいくとは思えない。大きなギャンブルだといえる。
彼の声明はアメリカ経済にとって大きな自滅・オウンゴールになり得、支持基盤が脆弱となり、彼自身の立場は危うくなる可能性がある。インフレ疲れによる国民が今回の措置を受けて、一層のトランプ支持……となるとでも思っているのだろうか?
蛇足として、日本国内においても証券会社のエージェントのような人たちが利下げ議論を懸命に語っているが(とくにセルサイドのアナリスト等)、このような流れを見れば、利上げはあれども利下げ議論をすること自体が現実離れをしているとしか思えない。慎重さをもって現実的な議論を展開して欲しいと思う。
この記事の著者・脇田栄一氏の新著『FRBとマーケットの関係がよくわかる本』が出版されます

『FRBとマーケットの関係がよくわかる本』
著:脇田栄一/刊:秀和システム
本記事は脇田栄一氏のブログ「ニューノーマルの理(ことわり)」からの提供記事です。
※タイトル・リード・見出しはMONEY VOICE編集部による