<牽引役その2:政府予算拡大の恩恵を受ける防衛関連事業>
もう1つの好調要因は防衛関連事業です。こちらは比較的シンプルで分かりやすい理由です。
【政府の防衛予算拡大】
日本政府がGDP比1%という防衛予算の上限を撤廃し、予算を約2倍に拡大したことが最大の要因です。
【日本の防衛装備品分野での最大シェア】
三菱重工は、ミサイルシステム関連をはじめとする防衛装備品分野で日本国内最大のシェアを持っています。IHIや川崎重工といった他の企業と比較しても、そのシェアは高いです。
防衛予算が2倍になったことで、三菱重工への受注も同じように、あるいはそれ以上に伸びたと見られます。その結果、ミサイルシステム関連の複数の大型案件を受注し、防衛関連の受注高は過去最高、前年度並みの水準となりました。これに伴い、飛行機非体、艦艇、特殊機械などを中心に売上も大幅に増加しています。
投資家が語る三菱重工の「意外な」過去と企業体質
最近の好調ぶりを見て、「三菱重工は素晴らしい会社だ」「ブランド力も高いし、ずっと買っておけばいい」といった声も聞かれるようになりました。しかし、昔から投資をしている投資家の中には、「いやいや、そんな単純な話ではない」と感じている人もいます。
なぜなら、実は三菱重工には”うだつの上がらない企業”だったという過去の事実があるからです。
過去には、前述のMRJの開発失敗で多額の赤字を計上しました。さらに、それよりも前に建造しようとした大型客船事業でも失敗し、散々な赤字を出した経験があります。
また、三菱重工の利益率は決して高いとは言えませんでした。売上高経常利益率が5%や6%程度だったり、ROE(自己資本利益率)も高い時で10%程度、平均すると7%以下、低い時には3%という水準でした。一般的にROEは8%以上が1つの目安とされる中で、なかなかその水準をクリアできない状況でした。
これらの実績から、正直言って”重くて鈍い”会社というイメージがあり、投資家からも敬遠される時期がありました。格式の高い企業であることは間違いありませんが、何か素晴らしい商品を開発したり、大きな市場を自ら開拓したりといったイメージは乏しく、むしろ官僚的で、昔ながらのビジネスや組織構成の会社である、という認識が持たれていました。
今の好調は「変わった」結果なのか?
最近の業績好調を見て、「時代に合わせて三菱重工も変わって良くなってきたのではないか」という見方もあります。株主からのプレッシャーなどもあり、経営陣も色々と考えて取り組んでいる部分はあるだろうとは言えます。
しかし、この好調は、三菱重工が自ら何かを根本的に変え、その結果として成功したという道筋では必ずしもありません。むしろ、皮肉にも、変わらなかった、あるいは変われなかったからこそ今の業績がある、という見方もできます。