<ガスタービン好調の「偶然性」>
ガスタービン事業の好調はいくつかの偶然が重なった結果であると言えます。
この事業は元々、日立との合弁会社「三菱日立パワーシステムズ(MHPS)」として運営されていました。両社が共同で事業を行っていましたが、技術競合や南アフリカでの火力発電事業の損失負担を巡る係争が発生しました。この係争をきっかけに合弁が解消され、結果として三菱重工がこの事業を100%傘下に収める形になったのです。
つまり、三菱重工がこの事業を完全に傘下に収めたのは、これからガスタービンが花盛りになると戦略的に判断したからではなく、こうした係争の経緯の中で結果としてそうなったという側面があります。
さらに、当時世界的にはグリーンエネルギーへの注目が集まり、シーメンスやGEといった海外の大手企業も火力発電事業から手を引き始めていた時期でした。そんな中、三菱重工は比較的この分野に残り続けていたと言えます。そこに、AI需要によるデータセンター向け電力需要増加という流れが来て、三菱重工に残っていたガスタービン事業と電力事情が「出合い頭の事故的」に合致し、業績が大きく跳ねた、という部分が正直あります。
もちろん技術力があったことは否定しませんが、自ら積極的に市場を開拓したというよりは、世の中がグリーンに向かう中で火力発電分野に残り続けたことによる「残存者利得」という側面もあります。
<防衛事業好調の「外部環境依存」>
防衛事業の好調も、国(政府)の予算次第という側面に大きく依存しています。三菱重工がこの分野から撤退しなかった(撤退できなかった)からこそ、今回の防衛予算拡大の恩恵を受けることができたと言えます。日本の防衛を国内企業で支えるためには、収益性に関わらずこの分野に残り続けなければならないという事情もあったのでしょう。
このように見ていくと、三菱重工の現在の好調の要因は、自社の努力や戦略的な方向転換というよりも、外部環境(電力需要の増加、防衛予算の拡大)に大きく左右されているという側面が浮かび上がってきます。
自社で新しい事業を生み出す難しさ
一方で、三菱重工が自社で新しい事業や製品を作ろうとする際には、苦戦するケースが多いです。前述のMRJや大型客船の失敗がその例です。
しかも、これらの事業からの撤退も、戦略的に「ここで撤退しよう」と決めたというよりは、ずるずると失敗を続けてうまく行かない状況に追い込まれてから、ようやく撤退せざるを得なくなった、という経緯がありました。これは、企業の動きの遅さを示しているとも言えます。
<現役・元社員の生の声から見える企業文化>
転職サイトのOpenWorkに掲載された社員や元社員のコメントからも、三菱重工の企業文化や課題が見えてきます。
良い点としては、原子力や防衛といった参入障壁の高い事業を手掛けていること、信頼性の高いエネルギー供給や幅広い分野での製品製造、グローバルリーダーとしての活躍、そしてガスタービンやボイラーなどの高い技術力が挙げられています。
一方で、課題としては以下のような点が指摘されています。
- 事業の硬直化が進んでいる
- 会社が大型であるため、急激な方向転換が難しい
- 多数の事業分野を抱えることで、経営資源(特に人的リソースや財務)が分散し、本来成長できたはずの事業の機会ロスにつながっている
特に、最近の在籍者からのコメントは非常に辛辣ですが、本質をついています。
- 近年の国際情勢の高まりやエネルギー関連の盛り上がりから当面は好調。しかし、社会に対してCO2を回収してどうするのか、次世代原発を作ってどうするのか、なぜ商品を作るのかという根幹の部分が欠如している
- 事業展望は川の流れのようである
- MRJや豪華客船よろしく、自社が始める事業は基本的に失敗する
- 昔からある製品が世の中の風(外部環境)次第で儲かるモデル
- 歴史を紡ぐことがこの会社の使命であると思う
これらのコメントは、三菱重工が自社で何かを変革して能動的に進むというよりは、外部環境の変化に流されるように業績が左右される、という企業体質をよく表していると言えます。