ダイキンの「すごさ」とこれまでの成長戦略
現在の苦戦がある一方で、ダイキンが世界の空調機メーカーのトップとなった「すごさ」は何なのでしょうか。
その立役者として有名なのが、井上元会長(現在は名誉会長)です。1994年に社長に就任し、それまで日本中心で赤字だった会社を立て直すため、海外展開をダイナミックに加速させました。
その戦略の中心にあったのがM&Aです。井上元会長はM&Aを「時間と人を買う」ことだと表現しました。自社で海外の販売網を開拓するには時間がかかり、人材採用の負担も大きい。そこで、ダイキンが持っていなかった商品カテゴリーや、現地の販売網を持つ企業をM&Aによって獲得していったのです
特にアメリカ市場の、日本とは異なる「ダクト式空調」(セントラルコントロール)の強みを持つ会社を狙って買収を進めました。
M&A成功の鍵は、買収後の「現地化」と買収先企業の尊重でした。買収したからといってダイキンの技術ややり方を押し付けるのではなく、買収先企業の文化や技術を尊重し、ダイキンの技術とうまく組み合わせて商品を作っていきました。過去にトップダウンで指示した際に技術者が大量離職した反省から、双方にメリットがある姿勢を崩さなかったことが大きいと言えます。このため、アメリカや中国、ヨーロッパなど、現地の文化や気候、ニーズに合わせて販売する製品は異なっているのです。
さらに、ダイキンは「市場最寄化戦略」を進めています。これは、販売地域の近くに生産拠点を設置するというものです。例えば中国で集中生産して世界に輸出する方がコストは安いかもしれませんが、地域によってニーズや気候が大きく異なります。現地の近くに生産拠点を持つことで、気候の変化や需要の急増(例えばヨーロッパでのヒートポンプ需要急増のような局所的な変化)に迅速に対応できる機動性を確保したのです。コストよりも起動性を重視した戦略と言えます。
M&Aによる販売会社の買収と、販売地域に近い生産拠点の設置という、生産体制と販売網の両立が、ダイキンが世界トップの空調機メーカーである大きな要因の一つと考えられます。
<現在の経営体制と今後の課題・見通し>
井上元会長は2024年に名誉会長に退きましたが、現在も89歳という年齢で相談役として経営に参画しているとのことです。その後任としては、戸川氏が13年間社長を務め、コロナ禍での欧州ヒートポンプ販売などで業績拡大に貢献しました。2024年からは生産部門出身の竹中氏が社長に就任しており、現場の目線を持っているのではと期待されています。
今回のアメリカでの需要読み違えは、ある意味で試練と言えるかもしれません。一度エアコンのシェアを落としてしまうと、買い替え頻度が低い製品であるため、シェアを回復させるのは簡単ではありません。特に代理店は売れる製品に注力するため、他のメーカーの製品が売れ始めると、ダイキンがシェアを取り戻すのは難しくなります。このため、アメリカ市場のシェアをいかに立て直せるかが、現在の経営陣の腕の見せ所となります。
現在の事業環境としては、住宅の着工件数が伸び悩んでいるなど、市場環境としては必ずしも良くありません。データセンターの需要は好調ですが、住宅向けが苦戦している中で、この狭間でダイキンをどう見ていくかが問われています。
外部要因としては、関税の影響も懸念されます。主にメキシコで生産しアメリカに輸出しているダイキンにとって、メキシコとアメリカの間の関税が重要となります。関税により約470億円程度のマイナス影響を見込んでいますが、価格転嫁やコストダウンで吸収するとしています。また、円安も中期計画の前提(1ドル125円)から大きく乖離しており(現在150円程度)、為替の影響をフラットに見ると業績が想定よりも良くない可能性も示唆されています。
長期的な視点で見ると、過去のリーマンショックのような不況からもダイキンは力強く回復した実績があります。現在の株価のPERは約17倍程度であり、現状では割高感はありません。
Next: ダイキンは買いか?長期投資家が持つべき視点まとめ