なぜ景気変動に強い?信越化学の「強み」とは
このような外部環境の厳しさがあるにもかかわらず、信越化学はなぜ「すごい」と言われ続けてきたのでしょうか。その最大の強みは「顧客との親密な繋がり」にあります。
信越化学では、営業担当者が少数精鋭で、顧客と密なコミュニケーションを徹底しています。顧客の現在の市況感、必要な数量、将来の需要予測などを都度ヒアリングすることで、深い信頼関係を構築しています。この信頼関係があるからこそ、景気変動の影響を受けやすい化学製品であっても、ある程度の量を安定的に供給できる「Win-Winの関係」を築けているのです。
一般的に、化学メーカーは需要予測が難しく、景気が良いと見込んで工場を新設したものの、景気悪化で工場が遊休化し、赤字を垂れ流すという事態が起こりがちです。しかし、信越化学は顧客との強固な信頼関係に基づく需要の読みと、それによる安定稼働によって、無駄な固定費による損失を防ぎ、高い資本効率を維持できています。多くの企業と長期契約を結び、安定供給を行うことで工場稼働率も安定しているのです。
さらに、この信頼関係は顧客からの新たな製品開発要望にも繋がり、信越化学はそれに答える高い技術力と開発力を持っています。これにより、景気変動の影響を受けにくい高付加価値品を次々と開発し、高い利益率を維持することができています。高付加価値品はライバルが少ないため、需要と供給のバランスが崩れにくいという特性があります。その代表例が半導体ウェハであり、フォトレジストやフォトマスクといった半導体材料もこの強みから生まれています。
このような企業文化を築き上げたのは、故・金川千尋元社長(会長)の功績が大きいとされています。彼は徹底した現場主義者であり、自ら顧客との対話や市況の確認を行い、その姿勢を社員にも徹底させました。また、「凡事徹底」(当たり前のことを当たり前にやる)という企業文化を根付かせたことが、現在の信越化学の強固な体質を形成したと考えられます。
信越化学の株価は割安か?化学メーカーとしての評価
現在の信越化学の株価は下落傾向にあり、「割安ではないか」との見方も出ています。

信越化学工業<4063> 週足(SBI証券提供)
現在のPERは約17.5倍、PBRは約2倍です。一時期はPERが30倍、PBRが3倍を超えることもあったため、過去の水準と比較すると落ち着いてきたと言えます。
しかし、化学メーカーとしての評価という視点で見ると、現在の株価は「普通」であると私は見ています。景気変動によってPER水準は変化し、利益成長が鈍化している時期は、PERが15倍から20倍の範囲に収まることが多いため、17.5倍は妥当な水準という見方です。
他の日本の代表的な化学メーカーと比較してみましょう。例えば三菱ケミカルは現在、PERが約8倍と一桁台です。化学メーカーは一般的に業績変動が非常に大きいため、PERの水準が低いという特徴があります。良い時は良いが、悪い時はとことん悪いというリスクが株価に織り込まれているためです。
これに対し、信越化学のPER 17.5倍は、他の化学メーカーに比べてかなり高く、そのリスクが小さく見積もられていることを示唆しています。これは、これまでの信越化学の安定した実績が高く評価されてきた結果と言えるでしょう。
しかし、今後の展望には注意が必要です。
Next: 信越化学は買いか?長期投資家が持つべき視点