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なぜ「日清食品」株価半減?米国での急成長と失速…どこで東洋水産と差が付いたのか=栫井駿介

海外事業の中心地:米国での急成長と失速

では、その海外事業の具体的な内訳はどうなっているのでしょうか。

2023年度までの年次レポートによると、日清食品の海外売上の半分以上が米国によるものであり、利益においても米国の割合が非常に高いことが示されています。

つまり、米国事業の不振が日清食品の業績悪化を直接引き起こしていると言えるでしょう。

興味深いことに、日清食品の米国事業は、2021年から2023年にかけて驚異的な成長を遂げていました。

  • 売上高は約2倍に増加
  • 営業利益に至っては29億円から215億円へと約10倍近くに急伸

この米国の成長が、2019年から2023年にかけての日清食品全体の業績を大きく押し上げていたのです。

この米国での急成長には、主に以下の2つの要因がありました。

<成長要因その1. コロナ禍での即席麺市場の拡大>

コロナ禍によるステイホーム需要で、手軽に食べられるインスタントラーメン(ヌードル)の需要が急増しました。

米国ではこれまで即席麺があまり浸透していませんでしたが、低所得層やヒスパニック系の人々の間で急速に受け入れられ、市場全体が大きく拡大したのです。特に東洋水産の「マルちゃん」がこの層に浸透しました。

<成長要因その2. 日清食品の「プレミアム戦略」とインフレの恩恵>

日清食品は、もともと「カップヌードル」を開発した企業としてのブランド力と、他社より品質が高く美味しいという評価を背景に、米国市場で「プレミアム層」を獲得しました。

他の即席麺より価格は高いものの、「美味しいから」と選ばれることで、利幅の大きい商品として収益に貢献しました。

さらに、同時期に米国で発生した急速なインフレに乗じ、日清食品は商品の値上げを実施。これが利益をさらに押し上げる結果となりました。価格上昇が、売上以上の利益成長をもたらしたのです。

 

このように、日清食品は米国でプレミアム戦略とインフレの波に乗り、大きな利益を上げていましたが、2024年以降の株価下落は、この米国への「期待の剥落」が主な原因と見られています。

足元の米国経済と市場環境の変化

では、なぜ米国での売上が落ち込んでいるのでしょうか。その背景には、米国経済の現状があります。

<インフレは続くも、雇用環境が悪化>

かつての米国インフレは、賃金上昇を伴う好景気によるものでしたが、現在のインフレは雇用統計の悪化に見られるように賃金が上がりにくくなっています。

これにより、特にインスタント麺の主要購買層である低・中所得層の実質的な購買力が低下しています。

<消費者の「安価志向」への転換>

景気の弱含みと購買力の低下により、消費者は「少しでも安いもの」を選ぶ傾向が強まっています。
日清食品のカップヌードルは、特にシーフード味などが人気ですが、プレミアム価格帯であるため、まず最初に消費者が削る対象になりやすいのです。

これまでの価格上昇によって利益を享受してきた反動で、売上が落ちると利益も大きく減少してしまいました。

<激化する競争環境>

日経新聞の報道によると、米国の即席麺市場シェアでは、東洋水産(マルちゃん)が1位(1,210億円)、日清食品が2位(770億円)となっていましたが、直近では韓国の農心に日清食品が逆転され3位になったとの情報もあります。

即席麺市場が拡大したことで、新たな参入企業(特に安価な中国メーカーなど)が増え、競争が激化しています。

マルちゃんは元々低価格帯で価格を抑えていたため、景気変動の影響を受けにくく、日清食品が営業利益27%減だったのに対し、東洋水産は7.6%減に留まっています。

営業利益率を見ても、日清食品が10%未満なのに対し、東洋水産は14%と高い水準を維持しています。

Next: 日清食品は買いか?東洋水産(マルちゃん)と比較すると…

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