<理由その3:低下する労働分配率>
3つ目の要因は、企業が稼いだ利益のうち、どれだけを従業員の給料(人件費)に回したかを示す「労働分配率」の低下です。
データを見ると、特に大企業においてこの労働分配率が低下傾向にあります。これは、企業が利益を増やしてきた背景の一つに、人件費を抑制してきたという側面があることを示しています。企業が儲けても、それが十分に給料として還元されてこなかったことが、私たちの「不況感」につながる大きな要因と言えるでしょう。
今後の展望と私たちが取るべき対策
では、この「株高不況」の状況は今後どうなるのでしょうか?そして、私たちはどうすればよいのでしょうか?
<日本株の将来は「悲観的ではない」>
まず株価については、現在の株高は企業収益という裏付けがあるため、バブルではありません。特に、現在の日経平均株価は半導体関連企業の動向に大きく影響されており、NVIDIAや生成AIの成長に見られるように、半導体市場は今後も非常に重要です。東京エレクトロンやアドバンテストといった世界的に競争力のある企業が日本には存在するため、日本株の将来は決して暗くないと言えます。
<給料は上がるが、インフレも進む時代へ>
一方、私たちの生活に直結する給料については、構造的な変化が訪れる可能性があります。日本は今後、深刻な労働力不足に直面します。人手が足りなくなれば、需要と供給の原理から、企業は給料を上げざるを得なくなります。政府も最低賃金を1500円に引き上げる目標を掲げており、今後は賃金が上昇するフェーズに入ると考えられます。
ただし、注意が必要なのは、給料が上がると物価も上がる(インフレになる)ということです。給料の上昇以上にインフレが進んでしまっては、生活は豊かになりません。
<自分の資産を守るために「投資」という選択肢>
このような時代において、給料だけに頼るのではなく、自衛のために資産を守り、増やしていく視点が重要になります。歴史的に見ても、労働による賃金の上昇率よりも、株式など資本の増加率の方が高い傾向にあります(トマ・ピケティ『21世紀の資本』)。
インフレが進むと現金の価値は目減りしてしまいます。だからこそ、海外でしっかりと収益を上げられるような企業の株など、インフレに強い資産を持つこと(投資)が、あなたの経済を守る上で非常に有効な手段となるのです。
まとめ:現状を正しく理解し、未来に備えよう
「株高不況」は、日本企業がグローバル化し、円安が進み、国内の労働分配が変化した結果として生まれた構造的な現象です。この現実を正しく理解することで、なぜ株価が上がり、なぜ私たちの生活が厳しいのかが見えてきます。
そして、これからのインフレ時代を乗り越えていくためには、給料アップを期待するだけでなく、自らの資産を守り育てる「投資」という視点を持つことが、これまで以上に重要になってくるでしょう。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年9月6日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
無料メルマガ好評配信中
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。
