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積水ハウス株は買いか?7000億円大型買収の光と影を長期投資のプロが解説=元村浩之

国内事業の課題:戸建住宅事業の衰退

直近15年間の営業利益の推移を見ても、受け型、ストック型、開発型ビジネスが巧みに組み合わされ、営業利益率を積み上げてきたことが分かります。国内事業の顧客基盤は強固であり、盤石であると言えるでしょう。

しかし、積水ハウスの戸建住宅事業は過去15年間でピークアウトし、衰退傾向にあります。この部分は、賃貸住宅事業と、若干ながら建築土木事業によってカバーされている構図が見て取れます。

中長期的に見ると、日本の人口は減少の一途をたどり、高齢化も進むため、国内市場全体としては衰退事業という大きな潮流は変わりません。このため、積水ハウスは海外市場に目を向ける必要がありました。

米国大手住宅ビルダーMDC買収:海外成長戦略の光と影

住友林業が海外で積極的に事業を展開している中、積水ハウスも海外戦略を強化しています。その象徴的な動きが、昨年2024年4月19日に完了した米国のMDCホールディングスの買収です。

MDC社は米国の9番手規模の大手住宅ビルダーであり、積水ハウスは買収に約49億ドル(日本円で約7000億円)を投じました。この大型買収により、積水ハウスは既存の米国事業と合わせ、ユニット数で米国第5位の建設会社となることを達成。米国住宅市場が成長市場であることから、この買収には大きな期待が寄せられました。

<買収後の米国事業に暗雲:営業利益の急落>

しかし、買収直後から積水ハウスの国際ビジネス事業には逆風が吹き付けています。買収によって営業利益は一時的に前年比250%と大きく伸びたものの、その後は徐々に低下し、直近の決算では前年比46%、80%にまで落ち込んでいます。

この不調の主な原因は、米国住宅市場の悪化にあります。住宅金利の高止まりが続き、値引きや「レートバイダウン」(買い手の金利負担の一部を肩代わりする施策)をしないと住宅が売れない状況が続いています。これらの値引きや金利負担は自社で賄う必要があるため、利益率が大きく圧迫されているのです。

今後も、米国の金利動向、建材価格の上昇、関税の影響など、住宅販売動向の見通しは不透明感を増しており、単中期での見通しは立てにくい状況です。中長期的には米国の慢性的な住宅不足から市場が回復する可能性は十分ありますが、足元の厳しい状況は否めません。

<大型買収に伴う財務・経営上の課題>

7000億円というMDC買収額のうち、約2000億円がのれん代として計上されています。こののれん代は20年間で償却されるため、年間約100億円の販管費が追加で発生することになります。これは積水ハウスにとって大きな額ではありませんが、利益を圧迫する一因であることは事実です。

また、買収に伴う借入れにより、自己資本比率は従来の約60%から約44%まで低下し、有利子負債は約1兆4000億円にまで積み上がっています。現時点では財務体質に大きな問題はありませんが、MDC社との相乗効果(シナジー)が期待通りに出なければ、投資家から疑問の声が上がる可能性があります。

MDC社はオーナー系の企業であったため、買収前の綿密な調査は行われたでしょうが、企業文化の統合は大きなリスクとなります。この統合プロセスは非常にハードルが高く、うまく進まなければ相乗効果は生まれません。

この点は、住友林業の海外展開とは性質が異なります。住友林業は2008年頃から米国の住宅ビルダーをコツコツと複数買収し、それぞれの統合難易度は比較的小さかったため、時間をかけて花開いています。しかし、積水ハウスのMDC買収は7000億円を投じた大規模なものであり、企業統合の難易度は高いと言えるでしょう。

一方で、積水ハウスの海外事業の営業利益構成比は24%と、住友林業の76%に比べて低いという事実もあります。このため、一時的に海外事業の調子が悪くても、株価への影響は住友林業ほどではないかもしれません。しかし、国内事業が中長期的に衰退していくことを考えると、海外事業の成功は積水ハウスにとって避けて通れない課題であり、MDC社との経営統合の難しさを乗り越えることが求められています。

Next: 積水ハウスは買いか?株価評価と長期投資におけるリスク

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