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トヨタは天下を取りにいく。米国市場首位は目前、完全自動運転車で「グローバル・インフラ企業」へ=勝又壽良

先に日鉄は、トヨタ自動車への鋼板価格について変動費値下がりを理由に、25年下半期よりトン当たり5,000円引下げた。これで3半期連続の引下げとなった。関税引上げへの配慮を含むとされるが、トヨタ(部品メーカーを含む)全体の生産コストは、年間で約150億円の削減になる。こうして、関税引上げによる減益要因1兆4,000億円のいくぶんかは穴埋めされそうだ。

トヨタは、このように好調な販売とコスト削減効果を背景に、26年の米国市場でGMを抜き首位になる公算が強くなっている。その概略をみておきたい。

トヨタが、26年3月期に北米販売計画として発表した販売台数は294万台(米国は約260~270万台)である。GMは、24年販売台数が270万台。これに成長率を加味した推定値として、25年は約280~290万台程度とみられる。トヨタは25年上半期(1~6月)で約124万台。仮に下半期も同程度とすると248万台に止まる。これに対してGMは、2025年上半期で約144万台。同様に下半期も同水準と仮定すると288万台となろう。トヨタは、25年時点の販売台数でGMを抜くことが不可能である。

26年になると、状況は大きく変わる。GMの24年成長率(前年比4%増)は、トヨタ(同3.7%増)をわずかに上まわっている。だが、トヨタは25年に入って新型EVやSUVの投入を加速させている。この結果、26年に逆転の可能性は十分にあるとみられるにいたった。米国は、世界自動車市場で君臨する。それだけに、トヨタがGMを抑えて首位になれば、名実ともにトヨタの地位が確立する。それは、トヨタへの信頼度を一段と増すことになろう。この高まる信頼度が、完全自動運転車への評価を押上げる。

27年度は完全自動運転車

トヨタは9月15日、移動式店舗などで使える電気自動車(EV)「e-Palette(イーパレット)」を発売すると発表した。当面は、手動の運転を必要とするが、2027年度にも特定の条件下で完全自動運転となる「レベル4」技術の搭載を目指す。東京・お台場エリアでこの車を使うサービスを広げて、地域の活性化につなげたいとしている。

完全自動運転車は、「信頼度」が最も優先される。自動運転車には、サイバー攻撃されて乗っ取られる危険性があるからだ。政治体制の異なる国が、製造する自動運転車にはどういう仕掛けがあるか分らないのだ。となれば、日本企業という高い信頼性によって、トヨタ自動運転車は世界中で受入れられる恵まれた背景を持つことになる。

完全自動運転車は、単なる機械ではなく「走る情報システム」である。センサー、AI、通信、クラウド連携などが複雑に絡み合っている。それだけに、製造段階でのセキュリティ設計と倫理的管理が不可欠だ。その点で、日本は信頼できる国家という揺るぎない財産を築き上げている。トヨタは、その信頼をバックボーンにした第一歩が、イーパレットとして始まる。

トヨタはまず、東京・お台場エリアなど限定空間での運用を想定している。これは、都市型モビリティや移動式店舗・シャトルバスなどに特化した用途限定型の自動運転である。このように、トヨタが特定用途・限定空間の自動運転から始めることは、社会受容性・安全性・法制度との整合性を確保しながら進める戦略とみられる。

完全自動運転車は、これまでの自動車の概念を一変させるものだ。ドライバーを必要としないことは、社会通念を破壊するものである。それだけに普及させる上で、前述のように社会受容性が不可欠だ。安心して乗れる条件を、どのようにしてつくるのか。それには、自動車自体の安全性のほかに法制度の整備が不可欠である。こういう諸問題を試行錯誤しながら進めるには、トヨタが行なう都市型モビリティや移動式店舗・シャトルバスなどに特化した用途限定型が最適である。

社会受容性こそ、完全自動運転車が最初に解決しなければならないテーマである。健常者が利用する一般乗用車よりも、公共目的の完全自動運転車を優先する取組みから始めるほうが、はるかに社会的意義がある。その方が、社会の受容性を高める上で役立つであろう。トヨタは、完全自動運転車の目的が個人ニーズの充足よりも、これからの高齢社会にマッチした共同ニーズの解決にあることを明確に示している。

Next: まだ伸びしろ十分。トヨタが「グローバル・インフラ企業」となる日

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